いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

短歌タイムカプセル-干場しおり 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 干場しおり

 

とけてから教えてあげるその髪に雪があったことずっとあったこと

 

 これは、昔好きだった人に、「あの頃好きだったよ」って言うみたいな気持ちなのかなと思いながら読みました。高校の頃とかに憧れて恋してた人に、大人になってから会って、もうお互いどうしようもなくて、「あの頃好きだったんだ」って。もう雪はとけてしまったんだもんね。髪はちょっと濡れてるのかもしれないけど、もう雪には戻せない。そんな感じです。

 

寝不足のまま秋風を受けしときふと寄りかかるひとりが欲しき

 

 これは、寄りかかるひとが誰もいなくてがんばってるわけだから、寝不足なのは仕事のせいかなって思いました。64年生まれかぁ。元祖キャリアウーマン的な??ちょっと時代感が分からないのですが、この歌集は29歳の時のものなので、20代の作品ですよね。やっぱり仕事な気がするなー。90年代だし、24時間働けますかみたいなさ。

 

 半分くらいの歌がなんか寂しい感じで、「孤独」「ひとり」「夜」「涙」って言葉が出てきます。なんとなくですけど、何かあったときにとっさに感情や行動が反射的に出てくる人ではないのかなって気がしました。後から、ああ、あの時こう感じたんだ私、って思っちゃうような。

 

 その中でも

 

右の手が右前足であったころ月に恋したあの「せつなさ」さ

 

って歌が好きでした。

 

 

取返しのつかない甘さをなすりつけ順接のこと責めてほしいの (yuifall)

Yogiboに凭れて眠る私にはミルタザピンがいるからいいわ (yuifall)

 

 

現代歌人ファイル その31-干場しおり 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-フラワーしげる 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 フラワーしげる

 

あの舗道の敷石の右から八つ目の下を掘りかえすときみが忘れたものが全部入っていて、で、その隣が江戸時代だ

 

 もう全然意味が分かりません…。全体的に意味が分からなくてシュールすぎるのに面白すぎます。その隣が江戸時代…。望月裕二郎の

 

さかみちを全速力でかけおりてうちについたら幕府をひらく

 

を彷彿とさせますね…。途中まではタイムカプセルかな?って感じなのに、オチが急に江戸時代か!

 

むかしより小さくみえるな 子供のころこのへんに住んでたんですか いや

 

とかさぁ(笑)。子供のころこのへんに住んでたんだと思うよね!小学校とかだと思うよね!

 

ぼくの名前はリスニングミュージックだ きみのために中央区にきた 宇宙はどこ?

 

とか…。一体どうなっているんだろう。うすた京介の『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!マサルさん』を思い出してしまった。。全然意味が分からないんだけど勢いで好きになってしまうシュールさというかさ…。めそ…。

 こういう脈絡のなさってどこから来るんだろう…。説明されたいけどされたくないな(笑)。ありのままを愛させてくれ!

 

 そんでこんな歌の中に唐突に

 

ぜったい後が面倒になるのでセックスはしないでおくあそこだけさわって

 

ってのが入ってて、あまりにも身も蓋もなくて笑ったわ。なんかいきなり地上だった(笑)。DNCEのPay My Rent(家賃払って)とかNaked(きみと裸になりたい)とかBe Mean(僕をいじめて)って身も蓋もない歌好きなのですが、その感じですね(笑)。

 

 ところで全然関係ないですが、DNCEのヴォーカルのジョー・ジョナス、歌声も歌詞も超セクシーなのにWikipedia先生によると「結婚まで童貞でいることを公言していた」とあって驚愕した。30歳まで童貞だったのか…。これは…世界中の男性に勇気を与えますね…。とはいえ奥さん美人女優だし、まあちょっと自分を重ねるのは難しい感じもしますけど…。ああマジで驚いた。アダム・レヴィーン並みのプレイボーイかと思ってたわ…。Body MovesのPVのエロさとか何なんだ…。

 

 

きみの副鼻腔につまったぶよぶよのスパゲッティが耳からちょっと見えてる 今日も暑いな (yuifall)

 

 

現代歌人ファイル その162-フラワーしげる 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-65 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-藤原龍一郎 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 藤原龍一郎

 

ああ夕陽 あしたのジョーの明日さえすでにはるけき昨日とならば

 

 この人の歌は固有名詞が多用されていますね。固有名詞は時代感をうまく反映したり、分かるものはすごくはまるのですが、分からないものは全く理解できません…。「岡田有希子」「アデン・アラビア」「貞子」「アッシャア家」「片桐夕子」「Starbucks」「スズキイチロー」などなど、分かるものと分からないものが混在しております。

 海外ドラマ見てると固有名詞を用いた比喩表現が日常生活で多用されてるので、そういうのうまく使いこなせる人に憧れるのですがどうも私はうまくないです。。

 

 そんな中に

 

明日は夏至 永久に帰れぬあの夏のヨットの真っ赤 なし崩しの死

 

というものが含まれていて、一瞬固有名詞がないように思えたのですが、これはサンクトペテルブルグ夏至祭(赤い帆祭り)のことかな?と思いながら読みました。

 

荷風より安田大サーカス好むスノビズムなれ鳴き鳴く夜鳥

 

 とか、懐かしい!安田大サーカスが好きかと言われるとちょっとアレですが(笑)、まぁー、スノッブですよね。仕方ないよ、って言っちゃだめなのかな(笑)。

 

 

今はもうない病院の処方箋受け付けている褪せたサトちゃん (yuifall)

シンプソンズシェイクスピアより好きだって世界に誇る頭脳たちでも (yuifall)

 

短歌タイムカプセル-藤本玲未 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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藤本玲未

 

糸電話片手に渋谷ぶらついてこちら思春期早く死にたい

 

 おー、これは思春期っぽい。しかも思春期を渋谷で過ごした退廃感ですね。なんつーか、桜井亜美的な世界観です。いや、ケータイ小説時代の空気感かな。どっちにしろ90年代後半~2000年代前半の香りですね(この人は89年生まれなので思春期は2000年代ですね)。

 このアンソロジーには90年代生まれ以降の歌人はいませんが、これより若くなるとどんな感じの傾向になるんだろうと興味が湧いてきます。

 

満月に皇居廃墟を駆け抜けて君と銀河ではぐれてみたい

 

 これを読んだ瞬間大好きな詩を思い出しました。谷川俊太郎の『ぼく』という詩の一節、

 

だれにも とめられない

ゆめのなかで ぼくがまいごになるのを

 

というくだりです。この詩大好き。銀河ではぐれたりゆめのなかでまいごになったりするのってロマンを感じますね!

 

 

脳味噌はダイヤ、ハートは氷。でも肺に粘つく愛がくるしい (yuifall)

北西に消えてく宇宙ステーション忘れていいよどんな私も (yuifall)

 

短歌タイムカプセル-福島泰樹 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 福島泰樹

 

その窓のむこうに映る人々や死はやわらかく溶けて廻れり

 

 この人は僧侶でボクサーなんですね。僧侶なのかぁ、だから死がやわらかく溶けて廻るんですね。死者の魂に寄り添うまなざしが感じられます。

 

羊水と湯灌のみずのやわらかく蕩けるように死はやってこよ

 

という歌もあります。この人にとって死はやわらかい存在なのかもしれないなと思いながら読みました。

 

 その一方で、

 

一万試合は観てきた俺の眼窩からある日歪みて消えゆくリング

 

というちょっと荒々しいテーマの歌もあり、ボクサーとしての生き方も滲んでいます。

 なんとなく全体的にハードボイルドっぽい感じですね。一人称「俺」の歌って意外に少ない気がする。たまに見るけど、どっちかというとトホホ系というか情けない俺、って感じの歌が印象に残ってますが

 

穂村弘の ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は とか)、

 

この人の「俺」は正統派「俺」ですね(笑)。

 

 いくつもの自分があるっていいですね。人って多面性のある存在だなと思います。個人的には理系の人が作ってる歌に心惹かれるような気もします。

 

 

目に見えるものを信じる腑を分けて死の奥へ濃く歩み入るとき (yuifall)

排泄物の臭いだね、死は、僕たちが受け取ってきたいのち全ての (yuifall)

 

短歌タイムカプセル-平井弘 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 平井弘

 

男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる

 

 これは、殺すのと殺さないのとどっちが優しいんでしょうか。優しいから殺せないでいる男の子に、「ぼくが殺してあげる」って言ってるの?それとも殺すのが優しさだから殺そうねって言ってるのかしら。一体何を貸してなにを殺すのか?無限に想像が膨らむシチュエーションですね。

 塚本邦雄の感想の時に書いたのですが、自分だったらそれが優しさだと分かっていても殺せるだろうか、と。だけど、自分には殺せない、って思っていても、実際は殺すかもしれないとも思います。やさしさじゃなくても、単に殺すかもしれない。

 ナチスドイツ時代の強制収容所のノンフィクションとか、人間に対する心理実験の本なんかをよく読むのですが、それを見てると人の心を操るのなんて簡単なんだという気がして。多分私は操る方にはならないけど、操られる方にはなるかもしれない。それが正しいと信じれば殺すかもしれない、という怖さがあります。

 震災関連の風評被害とか今回のコロナウイルス騒ぎとかを見て思いますけど、人は自分が正義に裏打ちされていると信じればどれほどでも他人に残酷になれるし、それが集団になればより顕著になる。多分、正当な理由があるって信じさせられて、かつ集団の一員になれば簡単に殺すかもしれない、と思います。それが一番怖いです。

 

 この人もそんな風に感じていたんじゃないかな、って、

 

このさき石を投げることがあるだらうかたまたま落ちてゐたとして

 

という歌を読んで考えました。石が落ちていたら投げるだろうか。それが優しさだって言われたら殺すだろうか。COVID-19に感染した人が嫌がらせされて自殺した、という話を聞くたびにこの人の歌を思い出します。命を守るための感染予防のはずなのに、感染した人の命を奪ってどうするんだろうか。本末転倒ではないか?

 

 ところで、

 

ねえむうみんこつちむいてスコップのただしいつかひかたおしへます

 

っていったい何なんだ(笑)。スコップをどうするんだよ!ってちょっと及び腰になってしまうよね(笑)。ムーミンママに聞けよ!いつも花壇いじくってるやろが。

 

 

だいじょうぶわたしはちゃんと殺せるわだけど理由はあなたが決めて (yuifall)

イデオロギーはない正当化もしない奪われるとき正義は意味ない (yuifall)

 

 

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短歌タイムカプセル-東直子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 東直子

 

好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ

 

 この人の歌を初めて読んだ時ものすごくびっくりしました。全然意味が分からない!っていう衝撃で。意味が分からないのに好きになってびっくりした。穂村弘も意味分からない系な気がしますが、穂村弘はわざと意味のないことを言ってるような感じを受けたのですけど、この人の歌はなんというか、この人ってマジでこう思ってるんだろうな、って感じがしてちょっと怖いくらいです。どういう思考回路なんだろうという衝撃でした。こういうワールドがある人って強いよなー、なんか。テクニックを超えてくるというか。

 (このアンソロジーにはのってない歌ですが)

 

え、という癖は今でも直らない どんな雪でもあなたはこわい

 

とかさ。わかんないのにすごい好きなの。

 

廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て

 

 その中でもこの歌は割と分かりやすい系統で、すごく好きです。多分新聞紙の上で桃の皮を剥いていて、落ちた皮が新聞の「廃村」の活字に触れて字が滲んで、切なくなって恋人に「来て」っていう、シーンなのかな、と思いました。この後どうなったんだろう。あんまり情熱的な感じはしないので、少し抱きしめあったあと、「どうしたの」「なんでもない」ってなって、普通に2人で桃を食べてそうな気がします。

 

 これもこのアンソロジーには載ってないのですが、

 

ははそはの母の話にまじる蝉 帽子のゴムをかむのはおよし

 

も好きな歌です。帽子のゴムの味が口の中に蘇ってくるようだよ。

 

 

20年経ったらきっとゆるしてね-110℉ (yuifall)

 

 

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