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短歌タイムカプセル-塚本邦雄 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

塚本邦雄

 

馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ

 

 代表歌ですよね。これは、徹底的にという解釈でいいのかな。なんか色々考えてて、「恋」ってなんだろう、ってすごい根本的な疑問が止まらなくなってしまいました。。

 

 最初は、恋で殺すかな??ってあんまピンと来なかったんですよ。最初に考えてた文章をそのままつらつら載せますけど↓

 

 馬の魂が冴えわたるまでというのはなんとなく馬が死ぬまでっていう、馬の一生を愛せよみたいな感じがするのですが、逆に人を殺したいほど恋焦がれる瞬間は、どうも持続しない感じがする。手に入らない愛なのかな。他人のものとか、犯罪レベルに年が離れてるとか、相手が異性愛者の同性とか、同性愛者の異性とか。自分のものにならないなら殺す的な?もしくはこの瞬間を永遠にとどめておくために殺す的な?自分の恋人で相思相愛の相手に、生涯殺したいほど恋焦がれるのはあまり現実的でない感じがします。

 BL本の話で恐縮ですが、木原音瀬原作・羅川真里茂作画の漫画『吸血鬼と愉快な仲間たち』読んでて、「あなたはすごいれんあいをしたことがある?しんでもいいっていうれんあい」って尋ねるシーンがあり、聞かれた相手が「…どうだろう、ちょっとわからないなぁ」って答えるのですが、その時この歌のこと思い出した。あとはジョシュ・ラニヨンの小説『フェア・チャンス』で、「ほとんどの人間は、そこそこなのよ。仕事でも、趣味でも、遊びでもね。恋ですらそう。あなたの知る中でひとつでも何かに卓越した人間なんてどれほどいるかしら?」って聞かれるシーン。私を含めてほとんどの人はそこそこの恋をして、死んでもいいみたいな恋愛なんてしたことないんじゃないかな。

 だけどそうじゃなくて、もしかしたら「恋」ってそれ自体がそういう瞬間的な何かなのかもしれません。もう未来とかなくていいや、現実のルールとかなくていいや、っていう、その一瞬だけに存在する何か。

 おお、何かパラダイムシフトが起きたぞ今。その一瞬だけだったらもしかしたらあったのかもねー。でもそれがないと本物の恋じゃない、って言われたらやっぱり反発したくなる自分もいる。。本物ってなんじゃよ??って。やっぱり、殺めないと思うなー、私は…。

 

 で、ここまで考えて、いや違うんじゃないか、ってふと思ったんだよね。これは『高瀬舟』(森鴎外)的な状況なのかな、って。愛する人のために手を汚せるか、ってことなのかな?って。でも、それって「恋」なの?「愛」なんじゃ?いやその違いってどこにあるの??って考えて分かんなくなった。単純に「恋愛」っていうか肉体関係を伴う愛情、あるいは自分本位の愛情?を「恋」って思ってたけど、「母を恋い慕う」みたいな言い方もするし…。

 でも『高瀬舟』的な状況だったとしても、自分だったら殺すだろうか…。それがもし救いだと知っていても、殺せないかもしれない。愛する人のためであっても、手を汚せないかもしれない。例えば自分にとってかけがえのない誰か、家族とか恋人とか、そういう誰かを人質にとられて、その人のために全くの他人を殺せって言われたら殺すかもしれない、とは思うのですが(それが戦争ってことだよね)、それってもはや「恋」とは次元が違う感じがする。「人戀はば人あやむるこころ」なんだから、最初の「人」と二番目の「人」はイコール(同一人物)である、と考えた方がリーズナブルだし。やっぱり恋している相手を殺す心、ってことなんだろうな。で、私がもし万が一殺すとしたら、やっぱり相手が死によってのみ救われるとお互いに信じた場合しかありえない気がする。先日ALS患者さんの嘱託殺人事件がありましたが、もし心から愛する人に死を望まれたら、自分だったらどうするだろう、と考えました。きっと、どれだけ考えても、実際に直面しないと分からないと思うのですが。そういう思いがふと「きざす」ことはあるのかもなぁ。

 

 しかし、どう考えても殺すのはハードル高すぎます。「愛する人のために死ねるか」って文学とかで時折見るテーマですが、死ぬか殺すかって言ったら死ぬ方が断然楽やろ。「人魚姫」とかさー、好きな男を刺し殺すか自分が海の泡になるかって言ったら海の泡一択じゃね?というか王子様からしてみたら、海岸で拾った女の子に親切にしてあげたらなぜか殺されかけるってとんだ災難じゃね?もし人魚姫が塚本邦雄だったら、「そこで殺せないのは戀じゃない」って刺し殺すんでしょうか。でもその場合、殺したら自分は死んじゃだめだよなって思う。一生その業を負って生きる覚悟がないと。

 

さみだれにみだるるみどり原子力發電所は首都の中心に置け

 

 これも、メッセージ性が強いですね。全体的に言葉に力のあるパワー系の歌が多いなーと思いました。

 

 なんか、いい歌って、

 

やがて死が堰き隔てむに忘失の刻あり人は生きて別るる (稲葉京子)

 

みたいに、一瞬でひれ伏すというか言葉を奪う系の歌もありますが、塚本邦雄の歌は饒舌系というか、人に何かを語らせたくなる系なのかなーと思いました。荻原裕幸もそうだけど…。前衛のパワーすごいっす。極端なことを断言するという、一種のアジテート的な手法ですね。バーンと一石投じておいて賛否両論を眺めるというか(笑)。

 

 

からだごと受け止めてぼくのたましいの底のヘドロを浚いたければ (yuifall)

きみがもし他の誰かに恋してもどうせ殺せやしないのですが (yuifall)

 

 

 

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