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現代歌人ファイル その62-杉原一司 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

杉原一司 

bokutachi.hatenadiary.jp

射倖心、ルーレット、自棄、思惟にいま絡みつく人体骨格模型

 

 解説には「名詞の使い方が特徴的」とあります。この歌なんてほぼ名詞で構成されていますが、何となくおしゃれですね。射倖心と自棄がのったルーレットを回している自分が人体骨格模型に絡みついている思惟、ってことかな。ダーツの代わりに骨投げるみたいな感じもしますね(笑)。

 この人は塚本邦雄の親友として知られていて、23歳で亡くなった夭折の歌人だそうです。

 

フラスコや振子はらばふ岩のかげ燈を消していま寝る深海魚

 

「フラスコ」「振子」「深海魚」という具合におしゃれな名詞を配置した歌が次々紹介される中で、

 

時計などもたないわれは辞典とか地図とかを読み楽しく過ごす

 

があってびっくりした。永井祐の

 

日本の中でたのしく暮らす 道ばたでぐちゃぐちゃの雪に手をさし入れる

 

となんか似てますね…。「辞典とか地図とか」って、上の「ルーレット」の歌と比べると言葉の使い方割と雑だし、「楽しく過ごす」ってこの身も蓋もなさ。まあ辞典とか地図を読むのは道ばたでぐちゃぐちゃの雪に手をさし入れるよりは賢そうではありますが、ちょっと笑ってしまいました。どういう流れの中にある歌なんだろう?もしかすると闘病中とか笑えない状況下の歌である可能性もあるのでなんとも…。

 

薄いコップの縁に残せる指紋など忘れて夏の陽ざかりを野を

 

わが夢をあざむくものの中にありてひとつだけ清き夏空の雲

 

杉原の歌には死の匂いがべったりと貼りついているように見えるのは、彼の夭折を知ったうえで読み始めたからばかりではないと思う。

 

と解説にはあるのですが、この人はどうして23歳という若さで亡くなられたのだろうか。ちょっとググったくらいでは死因が分かりません。死の匂いがべったりと貼りついている、と感じさせるのは、病死か自死だったのでしょうか。青春と死というのは若い頃に追いかけがちなテーマなので、仮に自分の死を知らなかったとしてもそのようなテーマで詠われていて全く不自然ではないのですが…。

 

 ところで塚本邦雄

馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ

ググると、「これは男同士の恋愛を詠っている歌だ」と書いているサイトがヒットするのですが

 

bubble-hour.blog.ss-blog.jp

これって単なる感想なんでしょうか、それともそういう事実が実際にあるんでしょうか?ちょっと私には分からないのですが…。

 解説に

 

 杉原の短歌は、一読すると驚くくらいに塚本そのままに見える。豊富な語彙を駆使したペダンティックな漢語の遣い方と、ほのかな青春性。それを見るにつれ、一般に塚本節と思われているものは実は杉原節なのではないかと思ってしまう。塚本は、夭折した親友を歌の世界の中にだけ生き残らせるべく自らの身を捧げたのではないかとさえ感じるのだ。

 

ってあって、「人戀はば人あやむるこころ」の歌が本当に相手が男性なら(つまりプラトニックな恋という意味でしょうが)、この人だったのかなぁとか考えてしまいました。亡くなってしまったってことを考えると特に…。

 

 

可塑性の汝の筐体たらむとし射出成形金型設計 (yuifall)