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短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

「一首鑑賞」-240

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

240.肉眼の雨おそろしく老けてゆくこの肉眼のタイムラプスに

 (内山晶太)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで井上法子が紹介していました。

sunagoya.com

 タイムラプスが分からなかったのでググったところ、

 

タイムラプスとは、時間(time)と経過(lapse)を意味する単語で、撮影において同一アングルにて静止画を一定間隔で撮って並べ、動画として流す方法のことです。

 

と書いてありました。イメージ画像を見ると分かりやすいかもしれません。

 つまり、「肉眼のタイムラプス」というのは、自分が同一アングルで同一の場所をずっと見つめ続けている、という状況かと思われます。雨の中(雨に打たれているかどうかは分からないけど)、その雨を見つめて、身じろぎもせず、ただ時間が流れていく。「おそろしく老けてゆく」という言い回しからはかなりの長時間が経過したことが窺われます。「タイムラプス」をググってイメージ画像を見ると、一番多く出てくるのが星や月の画像です。それから、夜の道路。そこから、一晩中雨を見ていたのではないかと想像しました。

 

 それにしても「動画」ではなくて「タイムラプス」なのは、なぜなのかな。そこにあるのは連続した一連の時間ではなく、一コマ一コマ切り離された静止画の集合体です。瞬きのたびにシャッターが下りるような感じ?「肉眼」という生身の感覚からはどちらかというと静止画よりも動画、それどころかより情報量が多い(匂いや肌感覚など)感じを受けるのですが、敢えて「タイムラプス」という言葉を使っているのは、そういう余分な情報をそぎ落としたい意図を感じます。つまり、実際の自分が感じている音や匂いや肌感覚などは全てそぎ落とし、ただ「肉眼」でとらえたものだけを並べて「雨がおそろしく老けてゆく」様子をまた「肉眼」でとらえなおしているような。

 全然関係ないのかもですが、「おそろしく老けてゆく」という言い回しから浦島太郎を連想しました。時間を早回しするみたいに、老いていく。ただ目で見たものだけが。そこには「肉眼」の自分がいるんだけど、その時間の間に心で感じたことからは遠く切り離されていくような気がします。

 

 

嘘だよね 一番綺麗な思い出のままの姿で会えるなんてさ (yuifall)

 

 

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「一首鑑賞」-32 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-239

「一首鑑賞」の注意書きです。

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239.水田に横転してゐる特急の写真を見ては和らぐこころ

 (花山多佳子)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで大松達知が紹介していました。

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 これはどういう意味なのかなぁ。受け止めきれなくて悩みました。鑑賞文では「水田」と「特急」の対比を読んでおり、

 

 それが人災によるものか天災によるものか、脱線・横転した。それに対して、悠然としているのが、水田である。

 日本を含めたアジアの人々を長く生かしてきた存在。

 近代文明の敗北と古代文明の勝利というわかりやすい構図。

 こういうことを日常会話で言ったら変人扱いされるはずだ。短歌でなければ、こんなふうに言いきることはできないだろう。

 

と、一種の「短歌の役割」を述べています。

 

 私はこれを読んで、逆に、かつて井上法子が紹介していた

 

津波のやうに流行り病のやうにといふ比喩ひえびえと近寄りがたく (寺井龍哉)

 

を思い出しました。一種の社会詠であり、「言葉狩り」の歌とも読めます。

 

 なんか、すごい乱暴なこと言っちゃうと、短歌独自の役割なんてあるのかなぁと疑問を抱きます。確かにポリコレを主張することもできるし、不謹慎を笑いにすることだってできるけど、でもそれは短歌に限ったことじゃないよね。お笑いだってそうだし、詩や小説、歌、過激な反社会活動だってそうだし。鑑賞文では、「常識的な自分」、つまり表面的なことを言うだけでは意味がない、<本当の自分>があるだろう、という風に書いています。

 ドイツ語には "schadenfreude" という単語があり、「他人の不幸は蜜の味」という意味であるというのは有名です。それが「横転した特急を見て和らぐこころ」かどうかはともかくとして、誰でもそういう「秘めた自分」みたいなのはあると思うしそれをさらけ出す芸術があってもいいとは思う。でも「短歌でなければ言い切ることはできない」とは思わないんだよなー。歌とか、あるでしょ。不謹慎なやつ、いくらでも。

 

 ただ、こういう歌に心惹かれる気持ちもあって、それは共感と言うよりも「どう感じたらいいのだろう」ということを知りたい、という願いの方が強いです。そんなん正解なんてないんですけどね。

 

 

可愛そう?もっと頂戴蜜の味さそり座生まれの女ですもの (yuifall)

 

 

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「一首鑑賞」-95 - いろいろ感想を書いてみるブログ

読書日記 2024年7月10-16日

2024年7月10-16日

・五十嵐律人『法廷遊戯』

・佐田三季『ボーダー』

林望『役に立たない読書』

・樋口裕一『読んだつもりで終わらせない 名著の読書術』

ルース・ベネディクト阿部大樹訳)『レイシズム

・逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

伊坂幸太郎『終末のフール』

太宰治人間失格

 

以下コメント・ネタバレあり

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「一首鑑賞」-238

「一首鑑賞」の注意書きです。

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238.ま夜なかのバス一つないくらやみが何故(なぜ)かどうしても突きぬけられぬ

 (石川信夫)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで大松達知が紹介していました。

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 最初「ふーん」って読んでいたのですが、よく考えるとなんか変です。「バス一つないくらやみ?」

 ぱっと読んだ時は、思い込みで、「自分はバスに乗ってくらやみを走行していて、そのくらやみが突きぬけられない」みたいに読んでいました。でも全然違います。「バス一つない」。てことはバスはないんだ。自分は一体どこにいて何してる??

 

 いや、「バス一つないくらやみ」という言い方が不思議である。素直に言うなら「灯り一つないくらやみ」であろう。「バス」が真っ暗闇を進んでゆく光景をわざわざ見せ消ちにしておいて、そのあとの暗闇の静寂さを際立たせているのだ。

 

 それにそうして暗闇の恐怖感に言及しておきながら、あらためて「何故か」というのも不思議である。

 

と、鑑賞文にはあります。現実的な読み方をすれば、歩行者がいることを想定していない田舎の山道か何かで、よって街灯みたいなものは存在しないくらやみで、バスも通らないようなま夜なかで、そこを歩いていて、「突きぬけられぬ」と感じている、と解釈できます。しかし鑑賞文にもあるように、「何故か」と書かれていることで、現実を詠んだ歌ではないのではないか?という感じを抱きます。現実と異界が繋がって、「何故かどうしても突きぬけられぬ」「くらやみ」の「ま夜なか」に突入してしまったような。「バス」は現実のシンボルかもしれません。

 

 ところでこの歌の初出は1936年で、大松達知は「昭和モダニズム」と書いています。時代を考えると、道に灯りがないことは不思議ではなく、「バス」だけが灯りをもたらす存在だったのかもしれない。当時の夜はとても暗かったのではないか。そんなことも考えました。

 

 

傷つかず生き来しことが瑕疵になる見知らぬ海の駅見送りつ (yuifall)

 

「一首鑑賞」-237

「一首鑑賞」の注意書きです。

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237.「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう何年だったか思い出せそう?」

 (笹井宏之)

 

 笹井宏之の歌は歌集『えーえんとくちから』で出会っているのですが、「一首鑑賞」コーナーを読んでいると色々な歌人が取り上げており、この歌は大松達知が鑑賞文を書いていました。

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 この歌は最初に見た時からずっと好きでしたが、どう読んでいいのかよく分からなかったし鑑賞文の書きようがないと思っていたので、「一首鑑賞」コーナーで出会ってちょっとびっくりしました。そしてすごいなぁと思いました。

 ただ、解釈しているかというとそうではなくて、純粋に感想が書いてあります。

 

歴史上の大事件と現在の(つまりは歴史の最先端の)自分たちが、年号を思い出すことでほのかにつながるのがおもしろい。

 

 しかし、その年号を思いだしても、法の発布と現在の自分に関わりができるわけではない。ただなんとなく当時の人々の暮らしを思い、現在の自分と比べたりするだけだろう。そのあたりの、突き詰めてゆかないところがいい。

 

 そうか、突き詰めてゆかないところがいいんだ、と思ったし、鑑賞文だって突き詰めてゆかない方がいいんだろうなと感じました。

 

 最後の

 

電子辞書をひくと、見出しに「こんでん・えいねん・しざい・ほう【墾田永年私財法】」という表記が見られる。それが発想の源だったかもしれない。

 

という記載になんかどきっとしました。ひらがなで書かれると、「しざい」という言葉が浮き上がって見えたからかもしれない。全然単なるこじつけだし、それこそそんな風に突き詰めていかない方がいいに決まっているのですが、笹井宏之はいつも死を身近に感じていただろうと思ってしまいました。

 

 

江戸時代、男は妻と間男を合法的に殺せたらしい (yuifall)

 

 

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Misery (Maroon5) 和訳

洋楽和訳の注意書きです。

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Misery (Maroon5)

Songwriters; Jesse Royal Carmichael, Adam Noah Levine, Sam Farrra, Michael Allen Madden, James B Valentine

www.youtube.com

Oh yeah

Oh yeah

So scared of breaking it

But you won't let it bend

And I wrote two hundred letters

I will never send

Sometimes these cuts are so much deeper than they seem

You'd rather cover up

I'd rather let them bleed

So let me be

And I'll set you free

 

I am in misery

There ain't nobody who can comfort me

(Oh yeah)

Why won't you answer me

The silence is slowly killing me

Girl you really got me bad

You really got me bad

I'm gonna get you back

Gonna get you back

 

Your salty skin and how

It mixes in with mine

The way it feels to be

Completely intertwined

Not that I didn't care

It's that I didn't know

It's not what I didn't feel,

It's what I didn't show

So let me be

And I'll set you free

 

I am in misery

There ain't nobody who can comfort me (Oh yeah)

Why won't you answer me

The silence is slowly killing me

 

Girl you really got me bad

You really got me bad

I'm gonna get you back

I'm gonna get you back

 

Say your faith is shaken

You may be mistaken

You keep me wide awake and

Waiting for the sun

I'm desperate and confused

So far away from you

I'm getting there

I don't care where I have to go

 

Why do you do what you do to me, yeah

Why won't you answer me, answer me, yeah

Why do you do what you do to me, yeah

Why won't you answer me, answer me, yeah

 

I am in misery

There ain't nobody who can comfort me (Oh yeah)

Why won't you answer me

The silence is slowly killing me (Oh yeah)

 

Girl you really got me bad

You really got me bad

I'm gonna get you back

Gonna get you back

 

 

直訳

 

So scared of breaking it

それを壊すのはとても怖かった

But you won't let it bend

でもきみは意志を曲げる気はない

And I wrote two hundred letters

僕は200通の手紙を書いて

I will never send

それを出す気はない

Sometimes these cuts are so much deeper than they seem

時々傷は見た目よりずっと深い

You'd rather cover up

きみは隠したらいい

I'd rather let them bleed

僕は血を流させておいた方がいい

So let me be

だからそのままにさせて

And I'll set you free

そしてきみを自由にするよ

 

I am in misery

僕はみじめだ

There ain't nobody who can comfort me

誰も僕を慰められる人はいない

Why won't you answer me

どうして答えるつもりがないの

The silence is slowly killing me

沈黙はゆっくり僕を殺していく

Girl you really got me bad

きみには本当に参ってる

You really got me bad

本当だよ

I'm gonna get you back

僕はきみを取り戻してみせる

Gonna get you back

取り戻してみせる

 

Your salty skin and how

きみの塩気のある肌、それに

It mixes in with mine

それが僕のものと混ざるやり方

The way it feels to be

その感じ方は

Completely intertwined

完璧に絡み合っている

Not that I didn't care

僕は気にかけていなかったんじゃない

It's that I didn't know

知らなかったんだ

It's not what I didn't feel,

感じていなかったんじゃない

It's what I didn't show

見せなかっただけ

So let me be

だからそうさせて

And I'll set you free

きみを自由にするよ

 

Say your faith is shaken

きみの信頼は揺らいだ

You may be mistaken

きみは間違いを犯したのかも

You keep me wide awake and

きみは僕にすっかり目を覚ませて

Waiting for the sun

太陽を待たせる

I'm desperate and confused

僕は絶望して混乱してる

So far away from you

きみから遠く離れて

I'm getting there

そこに辿り着くだろう

I don't care where I have to go

どこに行かなくてはならないかなんて気にしない

 

Why do you do what you do to me, yeah

きみが僕にするようなことをどうしてきみは僕にするの

Why won't you answer me, answer me, yeah

どうして答えてくれるつもりがないの

 

 

*もともとMaroon5が好きでこの曲も好きだったのですが(ただしMVはどうかと思うよ…)、glee S2のパフォーマンスでより好きになりました。

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*でも、正直 Misery という単語をどう訳してもしっくりこなくてずっと避けていたのですが…。何となく意訳。

*I'll set you freeと言っているのにI'm gonna get you backとも言ってるし、何がなんだか…。まあdesperate and confusedだからしょうがないのか?

 

 

意訳

 

別れるのは嫌なのに歩み寄る気もないんだね

僕は出すこともできない手紙を200通も書いたんだ

切り傷は時に見た目よりもずっと深い

きみは傷を隠しなよ、僕は血塗れのままにしとくから

放っておいてくれ、きみも好きにしたらいい

 

最悪だよ、誰にもどうすることもできない

きみは話もしてくれないし、どんどん気分が落ちていく

きみにはマジでまいってる、本当に

だからきみを取り戻さなきゃ、そうしてみせる

 

きみの汗ばんだ肌が僕の肌とまじりあって

完全に結びついたみたいに感じたのに

きみの気持ちがどうでもよかったんじゃない、きみは話してくれなかった

僕は何も感じてなかったんじゃない、僕も気持ちを話さなかったよね

放っておいてくれ、きみも好きにしたらいい

 

最悪だよ、誰にもどうすることもできない

きみは話もしてくれないし、どんどん気分が落ちていく

きみにはマジでまいってる、本当に

だからきみを取り戻さなきゃ、そうしてみせる

 

信じられないって言うけど、それは勘違いかもよ

きみのことを考えると朝日を見るまで目が冴えて

きみから離れてると落ち込むし頭はめちゃくちゃ

とにかく何か変わりたいんだ

 

どうしたらこんなひどいことができるの?

きみはずっと黙ったまま

もうこんなことはやめてくれ

そろそろ答えてくれよ

 

最悪だよ、誰にもどうすることもできない

きみは話もしてくれないし、どんどん気分が落ちていく

きみにはマジでまいってる、本当に

だからきみを取り戻さなきゃ、そうしてみせる

 

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北村薫『六の宮の姫君』 感想

 不定期読書感想文。

 

 前に

yuifall.hatenablog.com

で、「謎解きについては後日」と書いたのでアップします。

 核心に触れているので以下畳みます。

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