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現代歌人ファイル その17-笹井宏之 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

笹井宏之 

bokutachi.hatenadiary.jp

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

 

 この人の言葉って本当にきれいだな。解説にも「真っ白な幻想世界」とあるのですが、白い部屋のイメージです。私は、もしかしたらこの人がすでに亡くなっていることを知ってから歌に出会ったからそう感じるのかもしれません。すごく中性的な(というか性別を感じさせない)歌が多い中で、「あなたのワンピース」と相手が女性であることを示唆するこの歌が新鮮で心に残ります。ワンピースに実が落ちるんだから、彼女は樹の下で眠っているのかもしれないと思いました。僕はねむらない樹で、彼女を下に眠らせて、彼女を起こさないようにそっと実を落とすのかなって。

 

集めてはしかたないねとつぶやいて燃やす林間学校だより

 

みんなさかな、みんな責任感、みんな再結成されたバンドのドラム

 

 この言葉はどこから来るんだろうって思わせます。歌集『えーえんとくちから』の解説で、穂村弘がこう書いていました。

 

私やあなたや樹や手紙や風や自転車やまくらや海の魂が等価だという感覚。それは笹井の歌に特異な存在感を与えている。何故なら、近代以降の短歌は基本的に一人称の詩型であり、ただ一人の<私>を起点として世界を見ることを最大の特徴としてきたからだ。(中略)そんな<私>中心の短歌に慣れていた私は笹井の歌に出会って驚いた。「みんな」がいて「私」がいない。しかも、「みんな再結成されたバンドのドラム」だって?近代の和歌革新運動を経た歌人たちは、誰もが「<私>は新結成されたバンドのボーカル」だと思っていたんじゃないか(近代にはバンドやボーカルって言葉はないけれど)。(中略)笹井ワールドにおける魂の等価性と私が感じるものは、一体どこからくるのだろう。

 

 山田航も、

 

これらの歌の中には基本的に作者自身の自己像は登場しない。作中主体らしき人物はいても、それは誰とでも代替可能な「Nobody」である。不条理の世界の中で<私>が消失してゆく世界観は、ある種のシュールレアリズムにも似ている。

 

と書いています。<私>は誰とでも交換可能、魂は何者とも等価であるという感覚、そこからこの優しくもどこか切ない、美しい言葉が生まれてくるのかもしれません。

 

 

文字として生まれたのだから文字として死ぬよ白鳥ボートの上で (yuifall)

 

 

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