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読書日記 2024年4月10-16日

2024年4月10-16日

朝井リョウ『何者』

・松澤くれは『りさ子のガチ恋♡俳優沼』

・アーナルデュル・インドリダソン(柳沢由実子訳)『悪い男』

・ジョセフ・ノックス(池田真紀子訳)『トゥルー・クライム・ストーリー』

・商業BL小説と漫画合計20冊

 

以下コメント・ネタバレあり

朝井リョウ『何者』

 積読消化月間で。直木賞受賞作だそうです。さもありなん、という感じでした。若者の自意識の描き方がすごい…。これもある意味『日の名残り』(カズオ・イシグロ)と同様の“信用できない語り手”ものですね。一番騙したいのは自分という…。絶対傷つく系小説だなと思って読めずに積んでいたのですが、もう若くないせいか傷つきはしませんでした。もう“何者”にもなれないって分かってから読んでしまったので全てを遠く感じるし、解説にあるように、「これは断罪ではなく許容」なんだと思いました。そんなみっともない青春愛おしいよね。若い頃って未熟さゆえにひどく傷つけあったりして人は成長するんだよね。自分の中の汚いものと向き合うときが誰にでもあるんだよね。まあその成長の結果として何者にもならないわけなんですが…。

 我が身を振り返れば、自分も短歌を投稿したり批評してもらったりしないくせに好き勝手鑑賞文書いてるなーと思いはしたのですが、「いつか誰かが見つけてくれるかもしれない」と思ってやってるわけじゃないし感想読んだり書いたりするのが好きなだけだしな…。やっぱり自分に当てはめて読むにはちょっと遠すぎました、ってか逆におこがましいよね、そんな読み方は。純粋に、内容も構成もすごいし面白いなーと…。

 ほんとにすごいなと思ったのは、最後主人公のTwitterの裏アカが明らかになるんですが、内容は全て一人称の地の文に書いてあることだったり何なら友達と一緒に口に出して喋ってることだったりして、読者的にも(もちろん少しだけギミックがありますけど、ほとんどのことは)別に意外な新事実ではないんですよね。それなのにTwitterに書き込まれた内容だと思いながら読むと「うわー、こいつヤバ…」って思っちゃう自分と、まるでどんでん返しみたいに見える構成に驚きました。心の中で思ったり内輪のノリの中で一過性に口に出したりすることと、文章にして永久に残る形で不特定多数の他者に発信することは全然違うんだなーと改めて考えさせられました。

 

・松澤くれは『りさ子のガチ恋♡俳優沼』

 これも積読消化月間で。なぜ買ったのか思い出せん。私は三次元萌えは一切しないタイプなので、最初から最後まで分からんかった。だって俳優とか三次元の人って、実際どんな人か全然分かんないじゃん…。なぜ好きになれるのか分からん…。まあ漫画とかアニメやソシャゲのキャラだって情報出尽くすまでどんな人か分からないので、10年前とかに完結して追加ネタ投入ない(オワコンという言葉は使いたくない…)ジャンルにしかハマれないわけなんですが…。なのでこういう気持ち全然分からないと思いながらも、全然知らない人をガチ好きになる熱量すごいなーと思いながら読みました。レビュー読んでるとファン心理としてリアルみたいで、作者すごいですね。相手の脇の甘さの描き方もリアルで、イベントでファンに会って「はじめまして」はないよなー。前にも来てる人だったらかなり傷つけるよね。匂わせグラビアアイドルとの熱愛といい、なんかぽやっとしてる人という感じです。

 それにしても『政権☆伝説』笑ったわ。2.5舞台行ったことないですが、この内容は自分だったら夢じゃなく腐萌えする系だなと思いました笑。しかし歴代総理をネタにするのは罪悪感すごそうですね。正直近代以降の人をキャラ化するのは、作家を題材にしたやつとかもどうかと思う派。

 

・アーナルデュル・インドリダソン(柳沢由実子訳)『悪い男』

 アーナルデュル・インドリダソンのエーレンデュル捜査官シリーズ(アイスランドミステリ)好きで必ず買って読んでるのですが、ベリエ・ヘルストレム&アンデシュ・ルースルンドのエーヴェルト・グレーンス警部シリーズ(スウェーデンミステリ)と脳内で混ざってしまうのでいつも前作どうだったっけ…とか思いながら読み始めます。どちらも暗い北欧ミステリですが、まだエーレンデュル捜査官シリーズの方が救いがあるような気がする。もちろんミステリなんで殺人とか強姦とか起きるんですが、人口統計によればアイスランドは治安よいみたいで、人口38万人くらいのアイスランドで治安よくて裕福なんだから日本も人減ってもまあまあ大丈夫かなぁ、と思ったりもします。

 今回はエーレンデュルは出てこなくて、部下で女性のエリンボルクが主人公です。彼女の家庭の事情が明かされたりして、そっちも色々ごたついてるんですが特に解決せずに終わります。事件もあんまりすっきりしないし…。でもエーヴェルト・グレーンス警部シリーズは後味半端なく悪いので、それに比べたらエーレンデュル捜査官シリーズの方はまだリアルな感じのすっきりしなさというか、現実は何もかも明らかになったり何もかもすっきり解決したりしないよね…って感じです。

 

・ジョセフ・ノックス(池田真紀子訳)『トゥルー・クライム・ストーリー』

 電書版なかったのでけっこう分厚めの文庫本買って読みました。もともとこういう「証言」系の話が好きで、みんながそれぞれ自分の立場から物を見てるし嘘をついてる人が混じってるから話が微妙に噛み合わなかったり、視点によって意味が違っていたり…というのがとても面白いです。しかもこれにはもう1つ仕掛けがあって、作者自身が(二重の意味で)事件の関係者の知人として作中に登場するので「信頼できない語り手」みたいな感じにも読めるんですよね。最後はわりとすっきり犯人も分かり、残りのメンバーもわりとハッピーになる風なんですが、作者が信頼できないせいでなんとなく不穏な空気のまま終わります。本当に犯人この人なの?くらいに不穏な感じです。特に殺された女性が妊娠していたという情報が出されて終わるので、「こいつ(作者)の子なんじゃ?実は女性が邪魔になってこいつが殺したんじゃ?」みたいに勘ぐらせる作りになってます。とはいえ、作中の作者(ノックス)が本当に殺してたらそんな情報をそもそも本に載せないでしょうから、メタな仕掛けだなぁって思わせるくらいですが…。でも解決してないこともいくつかある気がするし(記憶違い?)、伏線全部は理解できてない気もする。

 インタビューを受けている人たちだけでなくインタビュワーやそれを纏める編者にも個人の思惑があって、本当に客観的な視点は持ちえない中で一つの「トゥルー・クライム・ストーリー」を見る、という構造がとても面白かったです。あと2011年当時の文化が…懐かしい…。「グリー出演者のライブに行く」とか「普通の女の子ならアデルのSomeone Like You あたりを歌う」とか「Facebookのステータスが…」とか言っててなつかしー!ってなった。でもこの子たちは若者のまま時が止まっちゃった感じが痛々しかったです。最後ハッピーエンド風だったのでまあよかったのかな。

 

・商業BL小説と漫画合計20冊

 以下、ほぼ積読消化でまとめ読み。

・火崎勇『信じてないからキスをして』

 警察官×検察官のライトBLもの。キャラはよいんですが文章が軽すぎ…。盛り上がるシーンの横滑り感がすごい。まあさらっと読む分には悪くないですが、再読はないかな…。

・砂原糖子『月は夜しか昇らない』

 これは逆に文章はいいんですがネタが合わない…。職業倫理…。いやマジ無理じゃない?男同士だからまあ…みたいな空気になってるけど、男女で想像すると最悪です。しかしBL作品ってこのくらいの倫欠ラブコメよくある気がするので(良い意味でアホコメディな感じの)、多分文章が硬質でハイレベルだからこそ気になるんだろうと思います。砂原糖子作品ってどうも合わないんだよなぁ。人気もあるし上手いのにハマれなくて残念。

・夕映月子『バズる男と営業の彼』

 これは展開が読める話ですね。そして『何者』(朝井リョウ)の後に読むと更に、何でもかんでもXみたいなやつに垂れ流すのどうかなって思ってしまいますね。これこそ倫欠アホコメディですが、こういうノリなら別次元の話として読めるんだよなー。

・川琴ゆい華『へたくそ王子と深海魚』

 これはスタンダードBLですね。お手本のように、出会う→いきなりの濡れ場→思いがけない再会→徐々に好きになる→なんだかんだありつつ心が通じ合う→濡れ場 の第一章と、ラブラブ→濡れ場→当て馬登場→誤解による仲たがいやすれ違い→なんだかんだありつつ心が通じ合う→濡れ場 の第二章という、ごくテンプレ展開です。でもテンプレをうまく料理するのがラブコメなんで、これは面白い方かなと思いました。受が男前なのもよい。攻の嫉妬が若干ウザいがこれは読者サービス的なものかな…と思い受け流す。

・凪良ゆう『ショートケーキの苺にはさわらないで』

『BLとSF』特集で紹介されていたので再読。やっぱりレベル高いなと思いました。特に、戦時下にあってドールを大切に思う主人公と前線から帰還した友人の口論がたまんなかった。今まで主人公に感情移入しながら読んでたけど、やっぱりそうだよな、所詮ドールなんだよな、って気持ちにもなって…。BL界だと凪良ゆう、一穂ミチ榎田尤利、尾上与一、木原音瀬は別格で上手いなと思いますが、こういう人たちって結局一般行っちゃうんですよねー。せめてシリーズ完結させてから移行してくれ…。ただ凪良ゆうのBLは、基本的に受が華奢な感じの健気な美青年なので萌えという点では合わなくて、単に小説として面白いから読んでます。

 でもさー、これ一般のSF小説だったら正直ツッコミどころ満載だよ。SFって現実とは違う世界設定だからテクノロジーなどについては「そういうもの」として読み進めるのですが、それできる設定なんかい!なら最初からやっとけや!みたいなご都合展開が後から出てくるしさぁ。その辺の甘さってBLだから許されてた面あると思うんですが、一般行ったらそこんとこどうなんだろう。本屋大賞とか受賞してたし、一般小説も面白いのかな。

・佐岸左岸『オールドファッションカップケーキ』

 受が39歳ってこと以外はあまり特徴のない恋愛ものでした。特に感想ないな…。

・赤根晴『笑う門にはクズ来たる』

・赤根晴『相方こじらせとんねん』

 お笑いもの。『相方~』の方が私は好きでした。両方ギャグなんで頭からっぽで読めます。

・大麦こあら『カットオーバー・クライテリア』

 SEもの。受が「もう30代」とかなんとか言ってますけど『オールドファッションカップケーキ』とか39歳だしなー…。正直年齢が高いのはそんな気になんないので(むしろ天才外科医27歳!とかの方が悪い意味で気になる)、男がそんなにそこ拘るかなぁって思ったりする。絵もおじさん感ゼロだし。

・加藤スス『5時にはおワンナイト』

・加藤スス『愛があるから押忍!』

・加藤スス『アンアンコールが鳴り止まない』

 この人の漫画笑えるので好きです。漫画では珍しく作家買いしてる。わりと執着攻ものが多いので普通なら好みじゃないんだけど、多分受がアホだったり強かったりするのでうじうじしてなく健気でもなくて笑えるのがいいんだろうな。

・ごんたくにど『金魚の産声』

 確か「ミステリ要素あるBL」みたいなのでおすすめされててまとめ買いした時に買った記憶。なんか気持ち悪い話でした。そしてこういうロードムービー系だと私の中では小野塚カホリ『LOGOS』が一番で超えられない…。

・濱久実『よだかは唄わない』

 これもミステリBL。といってもミステリ要素は薄いですね。周りで勝手に事件が起きて勝手に解決します。幼馴染もの。

・有木映子『イノセントの剥製』

 ミステリBLの一種なのか?ホストものかと思いきや…みたいな。ホスト萌えとインテリ萌えを一度に楽しめてお得みたいな?いや私はホスト萌えないんであれですが…。男には顔がよくて口もうまくて頭もよくて金もあってほしいという願望が満たされるみたいな?

・三月えみ『拒まない男』

 ミステリBLの一種なのか?探偵とコンシェルジュが出てきてあーだこーだ言ってますが結局はストーカー話です。笑えます。

・GODSSTATION『SANCTIFY 霊魂侵蝕』1、2巻

 海外BLコミックで、警察官×エクソシストですね。R-18シーンは今のところほぼ100%妄想です。3巻出てるみたいだけど完結してるのかなぁ。完結してたら読もうかな。

・早寝電灯『See you later, Mermaid』

 これもミステリBL。幼馴染ものなので上の『よだかは唄わない』とすでに記憶が混ざっているのですが、展開はこっちの方がミステリっぽいです。

・アキハルノビタ『虚構ユニゾン

 ミステリもの?SFの一種なのかな。登場人物少ないんであんまりどんでん返しみたいなのはなく展開もご都合ですが、ストーリーとか絵はわりとしっかり目。

 

 これほど読んでもまだ終わってない。しばらく商業BLは買わない方がいいかもしれません。積みあがってる…。