いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

読書日記 2024年3月27日-4月2日

読書日記 2024年3月27日-4月2日

太宰治『グッド・バイ』

・墨香銅臭(鄭穎馨訳)『魔道祖師』1-4巻

・アンディ・ウィアー(小野田和子訳)『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下

レイ・ブラッドベリ中村融訳)『何かが道をやってくる』

カート・ヴォネガット・ジュニア浅倉久志)『タイタンの妖女

 

以下コメント・ネタバレあり

太宰治『グッド・バイ』

 伊坂幸太郎の『バイバイ、ブラックバード』読んだのでついで読み。未完なので超短いですが、コンセプトは同じです。でも『バイバイ、ブラックバード』の解説にあったように、女と別れたいなら超美人連れて行くよりも超個性的な人連れて行った方が「あ、無理」ってなる気がします。

 最初「愛人全員と別れたい」と言った主人公に対して友人が

 

「無いね。お前が五、六年、外国にでも行って来たらいいだろうが、しかし、いまは簡単に洋行なんか出来ない。いっそ、その女たちを全部、一室に呼び集め、蛍の光でも歌わせて、いや、仰げば尊し、のほうがいいかな、お前が一人々々に卒業証書を授与してね、それからお前は、発狂の真似をして、まっぱだかで表に飛び出し、逃げる。これなら、たしかだ。女たちも、さすがに呆れて、あきらめるだろうさ。」

 

ってアドバイスしたの笑ったわ。これ1948年の小説だそうです。今でも通用するユーモアだよな。

 

・墨香銅臭(鄭穎馨訳)『魔道祖師』1-4巻

 かなり前に3巻まで読んでて4巻は積んでたのですが全部忘れたので最初から再読。

 一時期一世を風靡した中華BLです。「陳情令」ってタイトルで非BLドラマにもなってたみたいです(中華なので…)。実際、原作の出来がよすぎて逆にBLじゃない方がよかったんじゃという気さえするよ…。そう思うのは藍忘機(攻)のキャラがあんま好きじゃないからかもしれませんが。この人孤高の美青年すぎて魏無羨(受)以外だと身内か弟子としか仲良くないので、なんかコミュ障ぽくてどうも…。多分、孤高の攻が受だけを一心不乱に溺愛!みたいな類の萌えなんでしょうが、そういうの苦手なんだよね…。

 私は魏無羨と江澄の複雑な関係がめちゃくちゃ好きだったので、最後らへんに江澄が泣きながら「魏無羨、先に誓いに背いて江家を裏切ったのは一体誰だ?自分で言ってみろ。将来俺が宗主になったらお前は俺の部下になって、一生俺を支える。姑蘇藍氏に双璧がいるなら、雲夢江氏には俺たち双傑がいる。永遠に俺を裏切らない。江家を裏切らない、そう言ったのは誰だ!?俺はお前に聞いてるんだ!!」って魏無羨に胸の内を吐露するクライマックスシーンが胸熱で、ここで藍忘機が2人のやり取りに介入してセコムしてくんのマジウザいな…とか思ってしまい…。入ってくんな。

 とはいえ江澄が攻だったらよかった、とかは全然思ってないです。この人も魏無羨を一番愛してかつ憎んでてほぼ魏無羨しか見えておらず視野狭い系なので、BL関係だったらむしろ嫌だ。逆に、受と一番関係性の深いキャラでありながら全然セコムじゃないしそういう目では一切見てないとこが好きなんだよな。仲良かった頃から、「紐が必要?なら俺の帯をやるよ。それで首吊って死ね」くらいのこと言いますからね笑。

 

 家と家の関係とか師匠と弟子の関係、呪術や拷問のすさまじさ、展開の波乱万丈さ、残酷さや煌びやかさなどなど中華ワールドが堪能できてとてもお勧めなのですが如何せんBLなので万人受けはしません。なんなら魏無羨と温情(女性)が恋に落ちてもよかったなーくらいに思ってたのですが(まあその展開だと見え透いたお涙頂戴になりますけど…)、徹頭徹尾BLです。なので耐性のある方に限りますがストーリーはとても完成度が高いので「三国志」や「項羽と劉邦」とかが好きな人にもおすすめ。4巻のおまけさえ読まなければ濃厚なベッドシーンはほぼないですし。これ原作が非BLだったら二次ではいろんなカプ乱立しただろうなー。

 

 しかし、前回『暴力と不平等の人類史』長いし高いって書いたけど、『魔道祖師』は全4巻だからよく考えたらトータルのヴォリュームも値段も同じくらいかもしれません。数字のトリックだな…。

 

・アンディ・ウィアー(小野田和子訳)『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下

 これは私が今まで読んだSFの中で一番面白かったです。まあかなりのバイアスがかかっていることは認めます。そもそも有名古典SFをほぼ読んだことないしね。しかしやっぱり新しいので(2021年発行だったかな?)、現在の最新科学知識、テクノロジーがふんだんに取り入れられたうえで更にプラスアルファのSF的技術革新があり、あと訳も現代の言葉(今使われている自然な話し言葉)なので読みやすく、とてもわくわくしました。ほんとめちゃくちゃ読みやすかった。内容もすごい面白くて、数段階に渡る驚きがある上に9割がた読み進めたところで思いもよらない方向に話が展開し、最後のオチもとてもよかったです。なぜ読もうと思ったのかは忘れましたが読んで得した本でした。

 ただ一点だけ、永久凍土溶かしたらウイルスとか細菌とか大丈夫なのかね…。出てくるの温室効果ガスだけじゃないのでは…。

 

レイ・ブラッドベリ中村融訳)『何かが道をやってくる』

 これはSFではなくホラーなのかな。怖さは全然なく、文章がとにかく詩的でした。あと情景描写や人物の外見の描写がすごくて、多分映像にしたら映えるんだろうなーと。実際映画化されているそうなのですが、その出来は微妙らしいです。結局監督次第ってことか…。私は頭の中で文章を映像化するのがかなり苦手なので、こういうの映像で見れたら楽しいだろうなーと思ったのですが。

 3作しか読んでないけど、この作者には何か明瞭なメッセージがあって、それを伝えるために小説を書いてるのかなぁと思った。短編の方が好みでした。次読むなら短編かな。

 

カート・ヴォネガット・ジュニア浅倉久志)『タイタンの妖女

 時空を超えてあらゆる時と場所に存在できるラムファードとその妻ビアトリス、あと全米一の大富豪コンスタントの話。『暴力と不平等の人類史』読んだ後だったので、コンスタントが暴力的に財産を奪われて火星で「平等な」扱いを受ける姿を興味深く読みました。コンスタントは運命に翻弄されて財産や性欲などの欲望を全部奪われるけど、最後はタイタンで愛する妻と自立した息子を得、友人が迎えに来て死ぬというラストで、これが当時大学生に受けたのって資本主義粉砕!ラブ&ピース!的なこと??と思ってしまいました。

 でもこれ、「本当に大切なのは財産ではなく愛」みたいな単純な話として受け止めていいのかどうか分からん。むしろ身も蓋もない感じに見えます。エヴァンゲリオン旧劇場版のシンジとアスカのラストシーンみたいな…。「人生の目的は手近にいて愛されるのを待っているだれかを愛することだ」って、まー2人しかいませんからね。散々波乱万丈な人生を描いておきながら青い鳥みたいなオチは何なの?全体的におちょくった雰囲気なので真面目に言ってるのかどうか全然分かりません。

『スローターハウス5』では時間を行ったり来たりできるから全てを見ているけど特に何も干渉はしない「トラルファマドール星人」が出てきたので最初はラムファードもそういう存在かと思ったのですが、最後人類を操っていたかどうかについてトラルファマドール星人と言い争いになるし、多分同じ志の存在ではないんだろうな。というか、ラムファードも運命に干渉しているようには見えないのですが、おそらく「自分だけは全てが見える“万能”の存在である」と信じていたからこそ最後そうではないことが分かってトラルファマドール星人に激怒したのかなぁと思った。でも『スローターハウス5』で分かる通りトラルファマドール星人も運命に干渉する存在ではないので、むしろラムファードが滑稽な存在として描かれているように感じる。あとトラルファマドール星人が機械だったの初めて知りました。『スローターハウス5』でトラルファマドール星人はAIみたいだなと思ったけど、実際そんな感じなのか。

 人間に自由意志があるかないか、全て運命かどうか、操られているかどうか、そういうのってキリスト教の感覚なのかなぁ。『神曲』 読んだ時も思ったのですが、「神」という存在を信じるかどうか、神が何を成していると信じるかで人生との向き合い方が変わってしまうのかもしれない。私は正直あんまりその辺興味ないんだよなぁ。だって絶対、ネタバレが来ることないじゃないですか。もし全て決まっていて操られていたとしても、「嘘でしたー」とか言われることないわけだし、別にどうでもいっかって。個人的には『スローターハウス5』の方が面白かったのですが、それは『スローターハウス5』の方が主題とメッセージ性がはっきりしているからかもしれません。『タイタンの妖女』は読み切れてない気がする。