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読書日記 2024年2月28日-3月5日

読書日記 2024年2月28日-3月5日

・三崎律日『奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語』

カズオ・イシグロ土屋政雄訳)『わたしを離さないで Never Let Me Go』

サマセット・モーム土屋政雄訳)『月と六ペンス』

・アンソロジー『禁断の罠』

横山秀夫クライマーズ・ハイ

・白井智之『エレファントヘッド』

川瀬七緒『法医昆虫学捜査官 シンクロニシティ

川瀬七緒『法医昆虫学捜査官 水底の棘』

 

以下コメント・ネタバレあり

・三崎律日『奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語』

 ジェイムズ・エルロイの4部作の後で読んだので、あまりの読みやすさに感動すらおぼえました。すらすら読める!内容もとても面白いです。もともと海野弘の『陰謀の世界史』『ホモセクシュアルの世界史』『スキャンダルの世界史』みたいな重厚感のある内容を覚悟して読み始めたのですが(これらも固有名詞多すぎて私には難しすぎた)、ずっとライトで初心者向けです。ありがたい。もとはニコ動やYoutubeの解説動画だったみたいです。

 天体の回転や超伝導に関する論文捏造、武器軟膏、ロケット開発についての内容は知っていたのですが、偽書ヴォイニッチ手稿なんかについては初めて知りました。『台湾誌』とか『穏健なる提案』、『椿井文書』のあたりがめっちゃ面白かった。特に『椿井文書』の成り立ちや現実への浸透性が薄気味悪くとてもぞくぞくしました。一方で同じ捏造でも『ビリティスの歌』は、これ絶対男が書いたよね…って思いながら読んだら案の定でした。こんなん普通に男が描く女じゃん。やっぱりエロが絡むとつまらん。あとこれも『ルバイヤート』も、やっぱり外国語の詩って韻文とかが全く伝わらないので魅力半減なんだよなー。

 とても読みやすいので次回作も読んでみようかなと思いました。

 

カズオ・イシグロ土屋政雄訳)『わたしを離さないで Never Let Me Go』

サマセット・モーム土屋政雄訳)『月と六ペンス』

 最初『わたしを離さないで』を読んで感想書いたのですがあまり細かい点に触れていないのに2000字超えてしまい、でも別に大した内容でもないし記事分けるほどでもないかー、ここにそのまま載せよーと思っていたのですけど、次に『月と六ペンス』読んだらこの2つの小説の対比が面白すぎて長くなったので後日別途感想記事出します。

 

・アンソロジー『禁断の罠』

 米澤穂信有栖川有栖目当てで購入。米澤穂信が相変わらず最高でした。「禁断の罠」かどうかは微妙ですが、あの文体からたまらないのでもうそれでいいです。有栖川有栖は、相変わらずこういうの好きだよなーって思いながら読んだ。面白いんだけど寓話的な部分やパズル的な部分が背景から浮いてるような…。他も全体的に粒ぞろいでレベル高くはあったのですが、新規でこの作家読みたい!ってほどではなかったかな。

 これは私の個人的な嗜好ですが、動画炎上ネタが好きじゃない。そもそもあの一連の流れがすごく嫌いだし。何らかの不法行為や不潔な行為するのも、それを撮ってネットにアップするのも、拡散するのも、それを見て正義面して責め立てて叩いて燃やすのも全てが嫌い。なのでこのネタ出てくるとまたかーってうんざりする。すでにフィクションの世界でもネタとして擦られすぎで新鮮味もないし(ちなみにネットにおける炎上自体は2005年頃から、動画の炎上は2011年頃から一般的になった現象ですでに10年以上経ってる)。しかしそれを除くと他の『ヤツデの一家』は双子ネタってだけで微妙すぎるしどうせ妹の言ってること嘘だろって思うし(本当だった方が面白いけどね)、『大代行時代』しかないかな。でもこれも「禁断の罠」というテーマからするとどうだろう。一番「禁断の罠」っぽかったのは中山七里の『ハングマン』かなぁ。

 色々書いたけど全部一定レベル以上に面白かったよ。

 

横山秀夫クライマーズ・ハイ

 映画とかドラマとかになっていたそうなのですが全然知らず、特に何の先入観もなしに初めて読みました。すごい読みやすくてすらすら読めたし内容も密でとても面白かったのですが、読み終わってもこれといった感想が浮かばないな…。なんか色々あったけどハッピーエンドでよかったね、みたいなしょうもないことしか書けん…。全編通じてスカッとはしないけど最後しみじみよかったね、って思う感じの小説でした。

 

・白井智之『エレファントヘッド』

 多重解決ミステリの極限、とあったので期待して読みましたが、まあ…、なんだろ。中高生くらいだったら刺さるのかもしれん。厨二メタバースみたいな。西尾維新がちらつく感じ。内臓がやたら出てくるんですが、リアリティを犠牲にしたフェチっぽい描写が執拗に続くので、萌え駄目っていうかBLの受がどれだけ美しいか延々読まされてるみたいなうんざりして白けた気分になりました。あと医者に対する偏見がすごい。むしろ作者は医者?自虐ネタか?と思ったけどそうでもないっぽいです。医者だったらあんなフィクション内臓書かないか。

 そもそも最初に人間が爆発したあたりですでに読む気がかなり失せていたのですが、メインキャラの裏の顔が見えてからしょうもないことで家庭が崩壊するまでが面白くて後は数学の文章題みたいな内容でした。『百年の誤読 海外小説篇』(岡野宏文豊崎由美)で“本格ミステリは子供のための文学”と言われていたのが頭をよぎるよ…。まーラノベだと思えば面白い方では?同じ多重解決ラノベでも『虚構推理』(城平京)はひどかったもん。

 ところで後日知ったのですが、これ、E・C・タブの『ルシファー!』のオマージュじゃないのか?ネタもオチも全く同じやん。

 

川瀬七緒『法医昆虫学捜査官 シンクロニシティ

川瀬七緒『法医昆虫学捜査官 水底の棘』

 このシリーズ、内容はすごく面白いのですが、展開がテンプレ気味です。1~3作目まで読みましたが、どれも

都会で死体が見つかる→実は田舎でなんか起こってる→昆虫をよく調べた結果、原因のある田舎に辿り着く→メインキャラがピンチになって死にかける

と、全く流れが同じです。あと、最初は警察・役所の人・法医学者などに見下される→結果を出して見返すパターンもテンプレ。自分から専門家にコンサル依頼しといて全く信用せず見下すとかあり得ます??それに、メインキャラはみんな個性的なのにモブっていうか脇キャラは全くの無個性で、警察→排他的で偉そう、役所の人→真面目で融通がきかない、法医学者→エリートで上から目線、田舎の年寄り→学はないが生活の知恵がある、田舎の若者→エリート街道からは外れているが健気、というどれも似たようなテンプレなキャラ造形です。

 法医昆虫学という他では見ないユニークなモチーフを使ってて小道具の使い方もうまくて描写も真に迫ってるし事件も面白いのにストーリーの流れや背景がなんかのっぺりしているので感情の持って行きどころに困る。面白いんだけど…みたいな。

 でも面白いので引き続き読むつもり。