「短歌と俳句の五十番勝負」 感想の注意書きです。
二十一世紀に変わる瞬間につるりと手から逃げた石鹸 (穂村弘)
穂村弘で「石鹸」というと
アトミック・ボムの爆心地点にてはだかで石鹸剥いている夜
を連想してしまうのではないでしょうか。お題は「石鹸」じゃないんだけどさぁ。
「アトミック・ボム」の歌について山田航は
「石鹸剥いている」というのは石鹸の包み紙を剥がしているという意味だろう。石鹸は自分を洗い清めて生まれ変わらせてくれるはずのものだが、その包み紙がなかなか剥がれない。そのことにたまらなく焦っているのだ。原爆の悲劇を「アトミック・ボム」としか表現できない。すなわち同じ日本人のことであっても過去の人間の気持ちには想像を働かせることができない。そのことへの深い悲しみと焦りが、逆に現代人の「はだか」の姿を照射しているのかもしれない。
と解説しています。それと同様に読めば、「逃げる」の歌は「自分を洗い清めて生まれ変わらせてくれるはずのもの」に、「二十一世紀に変わる瞬間」「逃げられる」という図式であり、暦の上では世紀が変わる大きな節目を経ても自分は変わることができない、という暗示的に読めなくもないですね。
エッセイを読むとこれは創作のようですが、こういうささいな瞬間を捉えるのって苦手だからすごいなと思いました。誰にでも経験があって共感できるようなことを題詠にぱっと持ってきて詩にするのって難しいですよね。ちなみに実際には二十一世紀に変わる瞬間にはファミレスで和風おろしハンバーグを食べていた、と書かれていて、そんなこと覚えてるんだー、って思っておかしかった。
逃げるのは逃げたいからで追われたいからじゃないんだもうかけないで (yuifall)