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「短歌と俳句の五十番勝負」感想20.放射能

「短歌と俳句の五十番勝負」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

放射能を表す単位ベクレルの和名すなわち「壊変毎秒」 (穂村弘

 

 「放射能」、というのはRadioactivityのことで、簡単に言うと「放射線を出す能力」のことを表す言葉です。

 基本的には題詠ってどんな題を与えられてもそれなりに詠むのがプロなんでしょうが、お題として、この言葉はどうかなぁ、という気もします。「放射線」とか、そのものずばり「原発」とかの方がよかったのでは。俳句の方は「放射能浴びたる」という表現を使っていますが、「浴びる」のは「放射能」ではなくて「放射線」ですよね。短歌の方は、言葉の定義に忠実に詠もうとしたあまり、あんまり内容のない歌になっている気がする。確かに「壊変毎秒」という言葉のインパクトはすごいですが、そのまんまですからね。しかも「ただごと歌」という完成度でもないし。なんか、「放射能」という言葉の意味が分からなくてググってWikipediaに書いてあることをそのまま歌にしたのかなあ、という感じがします。その点はまだ俳句の方が文学的な完成度は高いかもしれません。

 題を出しているのは相馬市議会議員、東北お遍路プロジェクト理事長、とのことなので、やっぱり東日本大震災原発事故、というあたりを想定したお題だと思うのですが、「放射性物質」でも「放射線」でも「原発」でもなくて「放射能」(「放射線を出す能力」)が題だとちょっと社会詠まで結び付けづらいし、逆に出題者はこれらそれぞれの単語の意味の違いを分かった上でこの題を出しているのだろうか、という疑問も生じます。もし社会詠として詠むとしたら、今まで無害だったものが放射能を持たされ、放射性物質として取り扱われるようになった、という視点でしょうか。

 

 この本の題詠をずっと読んできて一番題をうまく活かせてないなって思ったのがこの「放射能」で、

 

アトミック・ボムの爆心地点にてはだかで石鹸剥いている夜 (穂村弘

 

を思い出してしまい、単に穂村弘が社会詠に不向きなのか、題がいまいちなのか、どっちだろう、と考えてしまった。まあこの短歌がすごくいいって思う人もいるかもしれないので、これは私の勝手な感じ方ですけど。このお題でむちゃくちゃいい感じの短歌あったら知りたいのでぜひ教えてください。

 

 

五千年夜を照らすか放射能持ちて時計のほのかなひかり (yuifall)