「短歌と俳句の五十番勝負」 感想の注意書きです。
流れよわが涙、と空が樹が言った警官はもういなかったから (穂村弘)
『流れよわが涙、と警官は言った』というのはフィリップ・K・ディックのSF小説で、原題は Flow My Tears, the Policeman Said だそうですが、「流れよわが涙」で検索すると『流れよわが涙』(Flow My Tears) という1600年成立のリュート曲があるそうです。文献上の初出は『第二歌曲集』(1600年)で、当時の題・綴りは「流れよ、わが涙、なんじの源から溢れ落ちよ」(中英語: Flow my teares fall from your springs)だとか。穂村弘もこの歌を「本歌取り」の「本歌取り」と書いています。
この歌は原発事故を題材にしたものだそうです。人のいなくなった場所で、空や樹が「流れよわが涙、」と呟くんですね。この歌については、もしエピソードなしで歌だけ読んだとしても、「本歌取り」のおおもとがSF小説であることも含め、何らかの状況で人類がいなくなった後の光景であると読めそうです。ただし「樹」が残っているわけだから、核戦争ではなさそうですね。まあ、核戦争を経て何万年後の世界とかなのかもしれませんが…。
そういえば、フィリップ・K・ディックには核戦争や放射能汚染を描いた作品も多くあった。特異な想像力が生み出したその世界に、いつのまにか我々の現実が近づきつつあるようだ。
とあります。『流れよわが涙、と警官は言った』も、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も未読なのですが(SF小説、あんまり馴染みがなくて…。『銀河英雄伝説』(田中芳樹)と『百億の夜と千億の昼』(光瀬龍)くらいしか読んだことないです…)、読んでみたくなりました。Wikipediaで調べてみると。
サイバーパンクを先取った作品でもあり、劇中ではチャットやSNSなどに近いシステムも登場する。
とあります。実際に、かつてSF的だと思われていた世界に現実が近付いているのかも。そしてこの短歌の風景もそのうち現実になるのかなー、って考えてしまいました。
ラジオから流れるEGO-WRAPPIN’ 今の聴いたことない声のさよなら (yuifall)