山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
喜多昭夫
白衣着て駆けあがりきし屋上に空飛ぶ鯨をわれは思ひき
この人の歌の特徴として、美しい青春歌、そして「本歌取り」が挙げられています。この歌は、吉野裕之の
ぼく達がいま歩きいるコラージュの街に空飛ぶ鯨を見たか
ともしかしたら関連があるのだろうか。他にも何首か挙がっているのですが、元の歌が分からないので本歌取りかどうか分からない…!という、教養のない人間の悲しさが炸裂しました(笑)。短歌だけじゃなくて俳句を底にしているものもあるようです。ググってみたら、
喜多は若かりし頃、与謝野晶子の
春短し何の不滅の命ぞと力ある乳を手にさぐらせぬ
をパロディーにした
オッパイはオッパイでしょ恥しくなんかないのォと僕の手をひく
という歌を歌会に出して春日井を仰天させた。
というエピソードがひっかかって笑った。
でもこれって、与謝野晶子の元々の歌がまさにこんな感じですよね(笑)。とはいえ「オッパイはオッパイでしょ恥しくなんかないのォ」っていう歌を歌会に出すのは勇気いるな(笑)。
ああ、仕事をやめてしまひたいこんな夜はヒヨコ鑑定士に弟子入りしよう
は内山昌太の
ひよこ鑑定士という選択肢ひらめきて夜の国道を考えあるく
の本歌取りだろうし、
秋の午後傷つきたくてマッチ擦る 院生室のソファーのくぼみ
は寺山修司の
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
と、もしかしたら俵万智の
思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
の、
デッキチェアたたんでゐたら一人づつ肩たたかれて連れていかれた
は笹井宏之の
それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどのあかるさでした
の本歌取りだろうな。すげー楽しい!私、本歌取り大好きなんです。できれば元の歌も一緒に載せてほしいなー♡この人のこと知らなかったけどめちゃくちゃ好きになった。
この人の歌全体的に面白くて、
みたいなふざけたノリのやつから
強く君に打ち寄せる波になりたくてその唇を噛んでいたのに
みたいな美しい歌まで様々あります。解説には
清新な青春歌や巧みな本歌取りも歴史的なもの・伝統的なものへの懐疑があるように思えてくる。すぐれた抒情の風景を切り取りながら、その風景が先にあったのかそれともそうした風景に抒情を感じる伝統が先にあったのかがはっきりとわからなくなってくる。抒情というものが、同種のサンプルを再生産して消費していくばかりではないかという疑問が生じてくる。
とあって、これは分かるなー。『現代短歌最前線』の随筆で小島ゆかりも書いていたように、
現代短歌最前線-小島ゆかり 感想5 - いろいろ感想を書いてみるブログ
先に感情があって言葉が生まれるのではなく、感情を説明してくれる言葉と先に出会う、ということってままあるから、ああ、この言葉、自分ならこうだな、みたいなノリなのではないだろうか。とにかく本歌取りが好き!
夢の逢ひは苦しかりけり四環系抗鬱薬で目覚められねば (yuifall)
*本歌取り
夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば