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「短歌と俳句の五十番勝負」感想19.四十八

「短歌と俳句の五十番勝負」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

角落ちて四十八滝鳴りやまず (堀本裕樹)

 

 四十八、でググると真っ先に出てくるのが相撲の「四十八手」です。他にも「四十八滝」「四十八願」などあるそうで、花札も48枚だとか。ここでは「四十八滝」がモチーフとして使われていますが、「鳴りやまず」と聴覚優位の描写がされています。滝って確かに音すごいよなと思ったのですが、その前にビジュアルの迫力があるので、なぜ音なんだろうと思ったら、エッセイで「夜の滝である」ことが記載されています。

 このストーリー、青春っぽくてよかったです。大学時代に、高校の時の友達と那智の滝を見に行ったエピソードなのですが、冒頭に

 

(前略)それで和歌山市から那智勝浦に向けて夜中の道を車二台で南下していった。カーステレオからはclassの「夏の日の1993」とかWANDSの「愛を語るより口づけをかわそう」とかZARDの「揺れる想い」とかが流れていた。曲名を並べるだけで恥ずかしいくらい典型的な当時の大学生である。

 

とあります。こういうの、曲名を自分の時代のものに変えて当てはめてみるとどの時代の人であっても共感できそうです。「夜中の道を向かう」というあたりも大学生っぽくてよいです。実際辿り着いたのは深夜だったようですが、

 

 僕はそれでも那智の滝をひと目見たかったので、飛瀧神社の鳥居の前に立った。すると、鳥居の奥の真闇の向こうから、両耳を押しつぶすような、ごうおおおおおおおおおという凄まじい水の音がどよめき迫ってきた。僕は恐怖で一歩も境内に入れなかった。御神体である一の滝の爆音に気圧されたのである。

 

と書かれています。夜中に滝を見に来て爆音におののき、「御神体に気圧される」というエピソード素敵ですね。夜中だからこそ、目で見るインパクトよりも音の迫力がぐっと強く迫って来る感じがします。

 冒頭の「角落ちて」は春に鹿の角が生え変わる意の季語だそうです。俳句で題詠って、お題も季語も入れて十七文字だから縛りがきついなあと改めて思いました。こうやってびしっと形にしてくるの、すごいですね。

 

 ちなみに穂村は「AKB48」で詠んでます。四十八というお題でそう来るとは思わなかったのでびっくりしました。このお題を出しているのは道尾秀介という作家の人で、ググってみたらすごい売れっ子でした。名前ピンと来なかったのですが(申し訳ない…)、そういえば『向日葵の咲かない夏』読んだことあるような気がする。

 

 

医師として四十八年あやまちがなかったはずはなかっただろう (yuifall)