いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

短歌タイムカプセル-林あまり 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 林あまり

 

死にはしない、狂いもしないと

 ふかくふかく信用される女ではある

 

 昔『ベッドサイド』という歌集を読んだことがあり、岡崎裕美子の時も書いたのですが、もともとセックスの歌ってあまり得意じゃないなーって思ってたので、その時はそれほど好きだと思えなかったんです。「生理中のFUCKは熱し」とかかなり表現も直接的だし。でも今読むと、この歌とか素直に好きだなって思います。自分をやや奔放に描写しながらも、「死にも狂いもしない」と冷めた眼差しでみていて、こういう突き放したところがいいなって。

 あと、こういう読み方は邪道かもしれないのですが、この人の背景を知ってから歌も好きになった。書肆侃侃房出版の『ねむらない樹 別冊 現代短歌のニューウェーブとは何か?』ってムック本にこの人の寄稿があって、そこに

 

 ここから自分の話をすると(中略)身体も弱いし、なんの取り柄もない。毎週キリスト教の教会に通い、教会学校の先生をし、本を読むだけの子だった。もともと私は、地味で面白みのない人間。短歌では、主人公を決めて、派手なドラマを作りたいと考えた。(中略)活字は残るからね、あんまり恥ずかしいこと書かない方がいいよ、なんて忠告してくる歌人がいると、(このひと何言ってんの?私、いま生きてるだけで精一杯なのに)と思った。

 

って書いてあって、すごく衝撃だったんです。ずっと『ベッドサイド』のイメージで、ちょっとバブルっぽいイケてる女の人がセクシーな歌を詠んでる、って思いこみがあったのですが、それって全部?演出だったんだ、って。この歌の突き放した感じってそういう背景から来てるんだな、って納得して、それ以外の歌も一気に好きになった。

 でも今読み返しても過激ですね(笑)。当時の与謝野晶子的な感じだったのかなぁ。女性が性を詠う!みたいな。

 

 あとはこの人といえば

 

さくらさくらいつまで待っても来ぬひとと

 死んだひととはおなじさ桜!

 

が有名ですよね。夜桜お七の作詞の人です。小気味いい感じで洒脱です。

 

なにもかも派手な祭りの夜のゆめ火でも見てなよ

 さよなら、あんた

 

とかかっこいいなー。

 

 自分は短歌でどんな人になりたいのかな、ってこの寄稿を読んで考えました。私は多分、男でも女でもない人になりたいんだと思う。そして男とも女とも恋したいな。枡野浩一みたいなこと言ってます(笑)。

 

 

「お前より長生きしたい」と言わせてる 弱くてずるいひとが好きでしょ? (yuifall)

仄暗い身体の芯を奪わせるためきみの手を掴む ここだよ、 (yuifall)

 

短歌タイムカプセル-早坂類 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 早坂類

 

十八歳の聖橋から見たものを僕はどれだけ言えるだろうか

 

 18歳の頃自分はどこで何をしていただろう。聖橋は神田川にある橋で、この人は山口県出身なので、進学か何かで東京に来たんでしょうか?プロフィールを調べてないので完全に想像です。

 自分も進学で故郷を離れて、一人暮らしを始めて、断片的に思い出す出来事はだいたい春か夏のことです。あの頃見たものをどれだけ覚えているだろう、あの時の気持ちをどれだけ覚えているだろう。若い頃なんて馬鹿だなって思うけど、もうあんな思考ができないことが残念なときもあります。

 

ほんとうはありとあらゆるひとたちが僕はしんじつ好きでした

 

 これも真っすぐで透明感があってちょっと痛々しくて青春っぽいですね。

 

 この歌集、『風の吹く日にベランダにいる』、このタイトルどこかで聞いたことあるんだよなぁ。知っているはずなのに思い出せない。歌だけ見ていたら男性かと思っていたのですが女性なのですね。歌集の写真見てちょっとびっくりしました。でも何度も読んでみるとなんだか雰囲気的に銀色夏生と似た空気感な気がして、やっぱり女性なのかなって気もする。

 

しらじらという空の様子は死んでゆく肉の臭いにすこし似ている

 

も好きです。なんか全体的に10代後半から20代前半の感じで、寝ないで飲んだり遊んだりした朝のだるさを思い出しました。

 

 

15キロ泳いだ後で抱き合った シーツの色が思い出せない (yuifall)

ホワイトバランスのずれた網膜で振り向いたとき いてほしかった (yuifall)

 

 

現代歌人ファイル その69-早坂類 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-9 - いろいろ感想を書いてみるブログ 

短歌タイムカプセル-早川志織 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 早川志織

 

シャンプーの香りに満ちる傘の中 つぼみとはもしやこのようなもの

 

 とてもかわいい歌だなと思いました。傘の中に自分がいて、ほんのりいい香りがして、もしかしたらつぼみの中ってこんな感じなのかな?ってことだよね。自分がつぼみかぁー。そう思えるのってハッピーだなあ。

 この人は東京農業大学卒業とプロフィールにあり、花や生き物の名前が入った歌が多いです。生き物に対する優しい目線が感じられます。子供を歌った歌も多くて、その中でも

 

あれがあなたの子かと聞かれて頷けばナンキンハゼがこぼす白き実

 

指さして子にものの名を言うときはそこにあるものみなうつくしき

 

という歌が好きです。

 

清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき (与謝野晶子)

 

本歌取りだよね?この歌、与謝野晶子の短歌の中で一番好きなんだよなー、なんか。

 

 

永遠に迷っていたい路地に咲く多分二度とは会えないダリア (yuifall)

 

 

現代歌人ファイル その43-早川志織 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-馬場あき子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

馬場あき子

 

住みながらこの国だんだん遠くなるてんじんさまのほそみちのやう

 

 「通りゃんせ」ですね。この歌はどうしても不気味な感じが付き纏うのですが、日本の将来を憂いている感じなのかなぁ。寺山修司

 

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

 

を彷彿とさせます。他にも、

 

使ひ捨てのやうに手荒く住んでゐる地球さびしく梅咲きにけり

 

という歌もあり、地球や日本について、このままではよくないのではないかという焦燥を感じます。

 

ふたたびの余震をさまりて点す卓人間が火を得し夜の深さに

 

 この歌も、2013年の歌集の作品のようなので多分この「余震」は東日本大震災の余震かと思うのですが、ということは「点す卓」の「火」は原発から得た灯りに照らされた「夜の深さ」を示唆してるのかなと感じました。単純に真の暗闇を知ってしまうと火に照らされた夜がより深く感じる、とも読めるのですが。。

 

 

行きよりも帰りがこわい 特記するべきこともない人生なのに (yuifall)

多数派といふ権力を振りかざし古くて悪しき時代長かり (yuifall)

 

短歌タイムカプセル-花山多佳子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

花山多佳子

 

ことごとく生きてゐる人、生きてゐる人だけがどつと電車を降りくる

 

 それはそうなのですが、改めて言葉にされると、すごい数の人間の人生がそこにあるなぁと思いますよね。そして、じゃあ死んでいる人は電車に残るのか?とか益体もないこと考えましたが、やっぱり回送電車には誰も乗っていない気がする。死んでいる人も。

 

ふうせんがおもい ふうせんがおもいと泣いてゐる子供はしだいに母に遅れて

 

 これも繰り返しの言葉が印象に残る一首です。ふうせんがおもいのか…。ヘリウムのやつかな、それとも空気のやつかな…。お母さんが子供を待ってないっていうのが妙にリアルで面白く、ちょっと怖いですね。そのうち子供がいなくなってそうで。

 

しかたなく洗面器に水をはりている今日もむごたらしき晴天なれば

 

 なんて歌もあります。ここまでくると、もしかしたら笑ってもいいのかな?って気がしてきますね…。「あー今日もウザいほど晴れてるわ…。仕方ねーから顔洗って準備するか…」みたいな(笑)。

 ちなみに前回の花山周子の母のようですが、2人ともけっこうツボに入って笑ってしまう歌が多いんですけど、笑っていいのかどうか、私の感じ方がおかしいだけかもしれないしちょっと自信ないです(笑)。

 

 

ことごとく死んでゐる人、死んでゐる人だけがずらりとスチールラックに並ぶ (yuifall)

分け合えぬなら全てが無駄と言うごとくdpiを上げる自画像 (yuifall)

 

 

「一首鑑賞」-95 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-花山周子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 花山周子

 

わが脳が静かに夢を紡ぎいる自給自足の時間を愛す

 

 これは、分かりますよねー。いつも自給自足してますよ。愚にもつかないことを考えまくって時間が過ぎていきます。オタクなら誰でも共感するはず!妄想だけでいくらでも暇つぶしができる!だけど同時に、

 

想像力が足りない故にここに君を再現できぬ故にかなしい

 

という歌があったりして、愛しくなります。確かに好きな人の像が頭で結ばないことありますよね。でも、想像力だけで再現した君もきっとかなしいだろうなと思いました。どうにもならんし、どうにかなったとしても現実でないし。せめて夢で会いたい的な感じかな。

 そして

 

どうしても君に会いたい昼下がりしゃがんでわれの影ぶっ叩く

 

とあり、おおー、そうくるのか!ってちょっと笑った。メランコリックな方向ではなくて影をぶっ叩くのね(笑)。これってなんでなのかな。影が自分から離れて君に会いに行くみたいな感じ?それとも単なる八つ当たり(笑)?上の句と下の句のつながりが分かんなくて面白いです。こういう歌好きだな。

 

 

こみあげるように自由だ白質の底に着衣で飛び込んだ今 (yuifall)

また夢で会ったねあなたの横顔はいつも綺麗でわたしを見ない (yuifall)

 

 

桜前線開架宣言-花山周子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

桜前線開架宣言-花山周子 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代歌人ファイル その77-花山周子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-服部真里子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 服部真里子

 

幸福と呼ばれるものの輪郭よ君の自転車のきれいなターン

 

 これはなんとなく子供かなぁと思いながら読んだのですが、他に子供の存在を感じさせる歌がないので、恋人かもしれません。でも、「幸福」「自転車」っていうと、初めて自転車に乗ろうとしてる子供を見守る親が目に浮かぶなぁ。後ろから押してあげて、手を離して、がんばれ!って。でも「ターン」だからやっぱり大人かなぁ。さすがに初めてでターンはできなかろう(笑)。

 

花降らす木犀の樹の下にいて来世は駅になれる気がする

 

 来世は駅かー。駅というと、誰もの最終目的地ではなく、通り過ぎる場所のイメージですけど。そういう存在になりたいってことなんだろうか。

 

人の手を払って降りる踊り場はこんなにも明るい展翅板

 

 ここに取り上げられている歌は全体的にちょっと寂しいけど明るくて、でも明るいのになんか苦しくて、それでもきれいだなって感じさせる歌が多いなと思いました。「駅になれる」だし「人の手を払って降りる」んだから他人と交わらずすれ違っていくだけ、っていう感じがする反面、「君の自転車のターン」を「幸福の輪郭」って描写しているところに、人との関わりを拒絶しきれない思いもあるような気がして、その苦しさや、どこかぽっかりとした明るさが胸に迫ってくるように感じました。

 

 なんで「明るい」って思うんだろうな、って考えながら読んでみると、「ひかり」って言葉が入った歌が多いからかもな。20首中6首に「光」に関連する言葉が入ってました。他に「明るい」「春」「花」もよく登場します。逆に言うとそんな言葉がふんだんに使われてるのに苦しい感じがするのはなんでなのかな。。

 

 

食洗器の水音優し清流のせせらぎよりも夜に染み入る (yuifall)

後頭葉まで突き刺さるプリズムは素肌に遠い季節の狂気 (yuifall)

 

 

桜前線開架宣言-服部真里子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

桜前線開架宣言-服部真里子 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-146 - いろいろ感想を書いてみるブログ