山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
早川志織
欲しいものはこうして奪う 校庭の柵にからまる明きヒルガオ
植物の名前がたくさん出てきます。東京農業大学農学部卒業のようです。この歌、明るいのにちょっと怖いなー。女の情念的な…。愛のコリーダ?奥村愛子?でも「校庭」だからもっと若い子かな。先生にちょっかいかける女子高生みたいな…(妄想です)。
異性らよ語りかけるな八月のクレオメが蕊をふるわせている
これもちょっと官能的なモチーフですね。植物の芯はいわば生殖器だから、香りの甘さや見た目の艶やかさと相まって、妖しいイメージにもなり得るのかもしれません。動かないところが特に、妖婦的な感じで。
眠りいる男の背骨なぞりつつ海沿いの錆びた鉄路を想う
この歌なんとも言えず好き。「海」っていうのは命の象徴みたいな意味合いなのでしょうか。背骨が線路で、海に続いていくみたいな。解説には、
動物だろうが植物だろうが逃れられない宿命としての生殖。たとえば相聞を甘やかに歌うときも、生殖へのクールな視点がどこか残されている。(中略)身体を生殖の器として、また遺伝子の乗り物として捉える視線からは、べたべたしたエロスなどは生まれようがない。文学者は恋愛を崇高なものとみなすが、生物学的な視点では生殖に奉仕するものとして相対化されるのだ。
とあります。自分もこの男も、通り過ぎていくうつわに過ぎない、と。
わたくしの赤子はすみれの色をしてはじめてのあまきにおい発たしむ
そして子供が生まれて、どの歌もとても瑞々しく楽しそうです。生き物に向けるまなざしがまっすぐで優しいなと思いました。
息をするたびに遥かな時を来しミトコンドリアの終末を呼ぶ (yuifall)