山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
荒井直子
死んだ子を産まねばならぬ私は陣痛促進のため廊下を歩く
ボール紙の小さな箱を柩としおまえは横を向いてねており
短歌研究新人賞候補作「紙の柩」は自らの死産の経験をテーマにした一連である。
と、解説にはあります。ううー、前回に引き続きしんどいテーマです。この頃山田航に何があったんだろうとメタな想像をしてしまいますね。シカゴの博物館に各週数の胎児の標本が展示されていたことを思い出しました。
なんか色々考えてしまってこの後の感想を書く気力がなくなってしまったのですが(色々書いていたのですが消してしまった)、ずーっとページを読んでいくと、
身籠るとはかく凄まじきものなるか ししゃものからだの八割たまご
絶え間なき苦痛の中に夫を罵り助産師を罵らぬ理性あり
哺乳類なるわたくしはみどりごに乳を吸わせる昼間も夜も
という歌が出て来て、ああ、お子さんに恵まれたんだな、ってなんだかほっとしました。むしろ面白い感じです。「夫を罵り助産師を罵らぬ理性あり」かぁ(笑)。まあ、助産師さんのこと、罵るほどよく知らないですしね…。解説には
そして歌の根本にあるのは、実はユーモアであるように思う。荒井のユーモアセンスがもっとも輝くのは、人命というものを絶対的に神聖なものとせずにクールな手つきで取り扱うときである。
とあります。
他には
中国では薬の組成を見ちゃいけない蝉入りかぜぐすりもあるから
みたいな歌も紹介されていて、ちょっとくすっとしました。なに蝉なんだろうなー。蝉の種類によって効き目って違うんだろうか。そして蝉のどの部分なんだろう。羽?胴体?
いろんなテーマの歌が紹介されていて、
基本的には連作型の歌人であり、一連ごとにまったく異なるテーマを扱う。就職活動に苦労しているときのもの、市役所で働いているときのもの、死期を迎えようとしている愛犬を描いたものなど、それぞれの連作がかなり断片的であり、写真一枚ごとに時間がやたらと飛ぶアルバムを見せられているような印象を受ける。
とあります。
ドアを閉め忘れた君の腰のあたりワオキツネザルのしっぽがチラリ
こういう歌、どんな連作の中の一首なんだろうな、って気になりました。
十二月五日 葉書に記されし産まれなかった次女の姓名 (yuifall)