山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
杉崎恒夫
樹枝状のブロッコリーを齧るときぼくは気弱な恐竜である
陽を浴びるカナヘビの子よやわらかいシッポにちょっと触っていいかい
くどうなおこの『のはらうた』思い出しました。『パン屋のパンセ』で有名な歌人ですね。1919年生まれで90歳まで歌を詠んでいたそうなのですが、全然年齢を感じさせないです。解説にも
とても高齢者が詠んだとは思えない若々しい歌は、圧倒的に若い歌人に支持されていた。
とあります。
さみしくて見にきたひとの気持ちなど海はしつこく尋ねはしない
この歌なんて、何歳の頃の歌なのかは分かりませんが、20代の人の歌、と言われても違和感ないです。歌集は2冊しか出していないそうで、第一歌集が1987年だそうなので、短歌との出会い自体が晩年のことなのかもしれません。
バレリーナみたいに脚をからませてガガンボのこんな軽い死にかた
いくつかの死に会ってきたいまだってシュークリームの皮が好きなの
解説には
そして最大の特徴と言えるのは、このような軽やかで現代的な歌い方をしていながら扱っているテーマが一貫して「老い」と「死」であることだ。このテーマを扱わない老歌人はまずいないが、アプローチの仕方の独創性という点で杉崎は群を抜いている。
とあります。詠われている「いくつかの死」もおそらくは同年代の人たちの死なんだろうなと思うのですが、「いまだってシュークリームの皮が好きなの」っていう言葉、言い表せないほど好きだなって思いました。こんなおじいちゃん…。いくらでもシュークリーム買ってきたくなっちゃうよ…。でもそんなにたくさんは食べないんだろうな。
星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ
こんな歌、若い人には詠めないなーと思う一方で高齢者にも詠めないのではないかと思えて仕方ない。奇蹟の90歳ですね…。若いけど幼くはなくて、なんというか、ジョバンニ(90歳)みたいな感じです。圧倒的に若い歌人に支持されていた、というの、分かります。人生に対してまっすぐで優しいまなざしが感じられて、あったかい気持ちになります。すごく素直に、好きだな、と思います。
役目っていつ終えるだろう音のない秋に向かって踏み込むペダル (yuifall)