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「一首鑑賞」-206

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

206.星空がとてもきれいでぼくたちの残り少ない時間のボンベ

 (杉﨑恒夫)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで井上法子が紹介していました。

sunagoya.com

 昔読んだ岩倉政治の『空気がなくなる日』という小説を思い出しました(絵本だったっけ?)。地球上から5分だけ空気がなくなるという噂が流れて息を止める練習をしたり、お金持ちの子供だけ親に空気の入ったチューブを持たされたりして(60年代とかの本なので、みんな貧乏だった)。この歌を読んで、今だったら各家庭にボンベが配られたりすんだろうなーとかしょうもないことを考えました。

 

 以前にもこの歌を引用したことがある気がします。この歌が入った歌集『パン屋のパンセ』が出版されたのは、杉崎恒夫が90歳で亡くなった後だったそうです。「ぼくたちの残り少ない時間」は、本当に自分自身の「残り少ない時間」を詠んだものだったことが分かる。

 

 こういう、年齢を重ねた人の切実で穏やかな歌がどうしても好きです。私にはきっとこの気持ちは分からない、理解できていないんだろう、と感じる一方で、私にも分かる言葉で詠ってくれている、という感じも受けます。「星空がとてもきれい」という、平易で普遍的な感動があって、その星空までのどこか、大気圏まで続いている空気が、どんどん薄くなっていく感じ。自分に残された時間、呼吸をするための時間は残り僅かだ、という気持ち。星々の時間に比べたら、私の残り時間も、この時の杉崎恒夫の残り時間も同じようなものかもしれない。だから今夜、星空を見上げたい。そんな気持ちにさせてくれる歌です。

 

 

「ああ、見て」と弟が指をさす先は祖父の葬儀の夜の星空 (yuifall)

 

 

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