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「一首鑑賞」-205

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

205.自転車は売り切れだつた4号線北へ北へと歩きしあの日

 (栗木京子)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで山下翔が紹介していました。

sunagoya.com

 「自転車が売り切れ」。つまり、電車にも車にも乗れないような状況で、みんなが帰宅しようとしている災害時の様子がイメージされます。「4号線」「北」という言葉から、東北地方の災害、つまり東日本大震災を咄嗟に思い浮かべたのですが、実際は

 

短歌日記2016」ということで、このうたには「三月十一日(金)」の日付がある。さらに詞書ともいえる日記部分には、「東日本大震災から五年。あの日はJR横須賀線車中に二時間閉じ込められ、そのあと新橋から北千住まで三時間歩いて帰った。」と記されている。

 

ということで、詞書に状況が説明されているようです。いわゆる帰宅難民状態です。「自転車が売り切れ」という通常考えにくい非常事態に、「北へ北へ」という言葉が、どこかロードムービーを彷彿とさせます。たくさんの人がいるのに、世界でたった一人取り残されたみたいな。

 

 鑑賞文にはこうありました。

 

同時に、それは世界のなかに、急に自分がちいさくなってしまったような感触をもたらす。あのときの、ある種の心細さが、それゆえに心をおおきくしてしまうような、そのちぐはぐな感じがリアルな一首とおもう。

 

 山下翔の「一首鑑賞」を読んでいると、言葉の使い方が上手だな、といつも思います。短歌を説明するのって無粋な行為かもしれないのですが、こんな風に解説されると、やっぱりいいなあって思う。歌の奥行を教えてくれるような鑑賞文ですよね。

 

 

2020年5月

貝塚から大濠公園まで歩く貝ほど閉じた沈黙の街 (yuifall)

 

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