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「一首鑑賞」-127

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

127.だれもみな手首に鍵をゴムで留めほとんど裸で水に入った

 (牧野芝草)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で都築直子が取り上げていました。          

sunagoya.com

 最初、温泉かと思ったらプールでした。「ほとんど裸」なんだから「裸」ではないんですね。私は「手首のゴム」がかろうじて「裸ではない」という意味かと思ってましたが、違うようです。まあよく考えたら「水」だしな。一般的に考えたら温泉ではないですね。

 

歌集の中では、この歌の前に〈鉄棒に表皮を忘れた膕に汗がしみます五時間目です〉(*「膕」に「ひかがみ」のルビ)が置かれているので、たぶん小学校のプールだろう。

 

とありますが、今の小学校のプールってロッカーに鍵とかあるんか?市民プールかと思って読んでたよ。

 

 この歌、なんてことないんですが、すごいインパクトありますよね。ただ「事実」を詠んでるだけなのに。これはある意味「アララギ」の「写生」というか、正岡子規が言った「理屈を排せよ」という精神性を体現しているような気がします。他にも

 

真夜中の湯船に浮かぶ柚子を握る 干渉縞は広がって消え

 

という一首が紹介され、叙情ではなくて現象が詠われます。最後に

 

作者の第一歌集『整流』は、このような姿勢に貫かれた一冊だ。こんな短歌はどうでしょう、と問いかける。「うん、おもしろい」と思うか、「うーん、ちょっと」と思うかは、読者のあなた次第だ。

 

とあります。

 

 こういう「ありのまま」の、精神性を排した歌に出会うと、なんか仏教的な悟りを感じます。ここから言葉以上のことを読もうとすることすら畏れ多いというか…。写経というか…。

 いや、逆なのかな。情景描写みたいに、ここから心情を読むべきなんでしょうか。私は情景描写めちゃくちゃ苦手なので、こういう歌すごくいいなと思うんですが。 

 でもここで「うーん、ちょっと」ってなる可能性が示唆されているのはなんででしょうね。全編にわたって情景描写のみということなんだろうか?歌集を全部まとめて読むともしかしたら食傷気味になって「うーん、ちょっと」って思う可能性もあるのかなあ。歌集を読んでいない立場としてはこれ以上何とも言えないのですが…。

 

 情景描写というより、「うーん、ちょっと」的な歌を作ってみました。てかこれ短歌なのか?

 

 

お湯を沸かし、沸かしたお湯を注ぎます 3分待ってお召し上がりください (yuifall)