いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

「一首鑑賞」-55

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

55.午後四時の地下鉄に誰もまどろみて都市の腸(はらわた)しづかに傷(いた)む

 (栗木京子)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で吉田裕之が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 あえて読もうとしないとどうしても口語の分かりやすい、面白い歌の鑑賞に偏りがちなのですが、文語の美しい文体で書かれたこの歌に一読して心惹かれました。鑑賞文には

 

午後四時とは、一日のなかでなんとも微妙な、あいまいな時間だ。そんな時間には、ふっと何かが見えてくる。

腸は地下鉄の比喩であり、同時に私たちの腸=身体であろう。都市は、人や物や情報が行き交う空間。私たちの生きる空間。栗木は、都市=私たちの痛みを感受している。都市=私たちはいつも痛みを抱えている。しかし誰も、気づかない振りをして過ごしている。

 

とありました。

 腸が地下鉄の比喩か。腸なのは線路なのだろうか、それとも地下鉄そのものだろうか。どちらにせよ我々は「排泄物」ということになりますが、この歌でいう「はらわた」は「腸管」とは必ずしも一致しない「内臓」のことのようにも感じます。また、「はらわたが傷む」という語感からは、「痛みを抱える」というより「腐る」という印象を受けます。都市が隠し持っている「内臓」(あるいは「腸管」)は、実は腐っているということなのではないだろうか。そう考えると、「まどろむ」のは、腐敗によって発生したガスから来る中毒のような感じもしてきます。

 夕方の、なんとなく怠い時間、一般的な社会人がまだ就業中の時間帯に人気がまばらな地下鉄に乗っていて、おそらく外では夕日が差して少し気温が高いような時間帯で、日のささない地下鉄内でみんな(子宮の中みたいに)まどろんでいて。地下鉄の揺れに合わせて車両の軋む音が響いて、どこまでも暗い線路に乗ってにょろにょろと進んでいく感じ。

 

 そういえば地下鉄サリン事件っていつ発生したんだろうな、って思って調べたら、平日の午前8時、ラッシュアワーの真っ最中でした。

 

 

包埋も埋葬なれば「永久」に胎盤のみが時を超えゆく (yuifall)

 

 

短歌タイムカプセル-栗木京子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ