「一首鑑賞」の注意書きです。
56.蜂蜜にカリンの輪切り五つ六つ浮かせて風邪を待つごとくゐる
(中地俊夫)
この歌は、最初ぱっと読んで、なんかわかるなーって思ってクリックしてみました。大根とかレモンとかのはちみつ漬けだったり、葛湯だったり、生姜湯だったり、冬になるとあったまるから飲みたくなるのですが、あの甘さにけっこうひるんでしまい、のどが痛い時とか、体調不良であまり食欲がない時とか、そういう時のための特別な飲み物かな、って思ってしまう気持ちがある。だから、かりんのはちみつ漬けを作って、「風邪になったら飲めるな」って思ってるのじゃないかなと。桃の缶詰的な感覚ですね。
そういう風に考えてこのページに入ってみて、吉田裕之は同じ作者の他の歌も複数紹介してくれているので、他の歌も読んでみたらすごく好きになりました。生活を詠った歌
止まらなくなつてしまひしトイレットの水音ひびく春のあけぼの
とか、自分の子供、孫に向ける温かい目線が感じられる歌、
子の役は蓑虫なれど父なればみのむしばかり見つめてゐたり
三一二四グラムの体重に満足をしておぢいちやんとなる
朱(あか)き実を川に流しつづけたことぢいぢが死んでも覚えてゐるか
こういう歌を読んで、なんだかすごく胸が苦しくなった。
若い人のシュールな感じの歌とか前衛的な作品、情緒的な青春詠なんかもすごく好きですが、こういう、年を重ねた人の、素直でまっすぐなじんわりとした愛情に触れると、もっとシンプルに生きてもいいのかなって気になります。みのむしの役の子は多分全然主役とかじゃないんだと思うんですが、ストーリーに全く関係なくみのむしばかりみているお父さんの姿が、本当に愛おしくなりました。
中地は、普通の父であり、普通の祖父である。普通であることが、やさしい。
と書かれています。
水銀につかせた冬の嘘ひとついつか私もゆるすのだろう (yuifall)