百人一首現代語訳 感想の注意書きです。
五十一・かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを
後拾遺和歌集 巻一一・恋一・六一二 詞書「女にはじめてつはかしける」 藤原実方朝臣
「このように激しく恋している」などとどうして言えるだろうか。
伊吹山のさしも草のように、燃える思いをあなたは知らない。
いぶきのもぐさじりじり
もえ、じりじりともえる
おもいを、もやしつづけ
る男のまごころ。こころ
ゆくまであなたにしって
もらいたいこの火の想い
(さ・え・ら書房 『口語訳詩で味わう百人一首』 佐佐木幸綱)
こうとさえ 言えない伊吹の さしも草
そうとも知らない 燃える思いを
船旅のデッキでひとり吸ふ煙草燃ゆる思ひをあなたは知らず (栗木京子)
この歌はめちゃくちゃ技巧的らしく、詳細についてはここでぐだぐだと書くよりもググっていただきたいのですが(知っている人も多いでしょうし)、『百人一首がよくわかる』に、恋の歌というよりどちらかというとナンパの歌、と書いてあって笑いました。こんな内容なのに、「こんなイケてる歌作れちゃう俺かっこよくね?」みたいな感じらしいです(笑)。
佐佐木幸綱版では頭文字を逆から読むと「もゆるおもい」になっていて、トリックが仕掛けられてますね。この歌は内容もですが、テクニック性重視の口語訳が求められるっぽいです。栗木京子版でも「燃ゆる思ひ」というキーワードが入っていて、“船旅のデッキ”“ひとり吸ふ煙草”と、小道具によるアクセントがきいてます。栗木京子版は主人公は女性な感じがする。
佐佐木幸綱版で思い出したのですが、縦読み(日本語の場合横読みですけど)テクニックって面白いですよね。和歌だと
夜も涼し寝覚めの仮庵手枕も真袖も秋に隔てなき風 (兼好)
夜も憂し妬たく我が背子果ては来ずなほざりにだに暫し訪ひませ (頓阿)
の「よねたまへ ぜにもほし」「よねはなし ぜにすこし」のやり取りが有名だと思うのですが、昔コバルト文庫の『放課後シリーズ』(日向章一郎)だったかなー、で出会った詩
いくつものとき
力をくれたきみ
番狂わせの愛と
戦いの闘志
いつまでもここに
切ない愛の歌
繋ぎとめておきたい
夏の日の記憶よ
を縦読みすると「いちばんたいせつな きみとしにたいよ」になる、っていうのがすごいインパクトで、今でもこの詩が暗唱できる…。
最後の一文字「も」+五七五七七の頭の音を逆から読むと「もゆるおもひ」になる歌を作ってみました。
火の想ひ黙せど赫き燠のごと縷々と灯れり幽愁の夜も (yuifall)