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「一首鑑賞」-70

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

70.傘を差さなくていいほどの雨が降るという気象予報士の目を見てしまう

 (竹中優子)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で染野太朗が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 なんかどきっとして心に残っている歌です。微妙な雨の日にいつも思い出します。

 

 昔、傘をあまりささない子供でした。多分10代の終わりか20代のはじめくらいまではそうだったと思う。大学生の時、友達に「傘ささないんだね」って言われたことを覚えてるから。でも、いつからかは覚えていないのですが、ささいな雨でも傘をさす大人になりました。いつも折り畳み傘を持ち歩いているし、他に誰も傘をさしていないような雨の降り始めとか振り終わりの時も一人だけ傘さしている。だから、「傘を差さなくていいほどの雨」って、どのくらいの雨だろうな、って思うんです。

 多分、これは、作者もそう思ったから「気象予報士の目を見てしまう」んだろうな。いや、あなたは傘ささないかもしれないけど私はさすよ、っていうかあなたはどのくらい雨が降ったら傘をさすの?って。

 「目を見る」がどきっとする表現で、普通は「目を見る」ことによって何らかのコミュニケーションが成り立つことが期待されるのですが、この場合は気象予報士に対してこちらができることは何もないわけで、「目を見て」いてもその感情の経路が一方通行である、ということにそこはかとない怖さを感じます。まあ現実的には多分つけっぱなしのTVから天気予報を聞くともなしに聞いていて、「傘を差さなくてもいいほどのにわか雨が降ります」という表現に思わず顔を上げて画面を見てしまったということでしょうが…。

 それにしても、「にわか雨の可能性がありますのでお出かけの際は折り畳み傘をお持ちください」みたいな、お母さんかよ、ってくらいの表現はよく耳にしますが、「傘を差さなくていいほどの雨」という表現は聞いたことがなく、もしかしたらこの台詞自体が創作なのかもしれないなって思いました。創作だとしたらものすごくセンスいいなー。

 

 他にも

 

この人を傷つけないで黙らせたいという用途で作るほほえみ

 

なんて歌が紹介されており、この人はちょっとした感情のゆれに対する感度が高いんだろうなぁと思いました。

 

 ところで冒頭に

 

「罠と伊予柑」は2018年6月発行の、竹中優子の個人誌。同じく6月の福岡ポエイチというイベントに100円で販売されていたのだが、短歌計70首ほどと、詩4篇、エッセイ3篇、小説1篇を含む充実の内容で、圧倒される。

 

とあり、歌集(しかも歌だけじゃなく色々入ってる)を100円で売っちゃうんかい!ってびっくりした。

 このイベント有名なのかな?染野太朗はこの人の歌集をこのイベントで100円で買ったのでしょうか。なんとなく歌人って忙しそうなイメージなので、結社に投稿される作品とか短歌雑誌とか歌人コミュニティとかで他人の歌を知るのかなって思っていたのですが、こういうイベントに足を運んで個人の歌集を買って読んだりするのかぁ、ってことにちょっと驚きました。本当に詩とか短歌とか好きな人は商業だけじゃなくて同人誌即売会的なところでアマチュア作品を探したりもするのかもしれません。

 

 

靴を履かなくていい距離にいると言っては空を見上げる (yuifall)