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「一首鑑賞」-190

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

190.責めるとか許すとかいふのもちがふ 馬肥ゆる秋 だから忘れず

 (染野太朗)

 

砂子屋書房「一首鑑賞」で井上法子が取り上げていました。

sunagoya.com

 この歌を読んでとっさに連想したのが

 

赦せよと請うことなかれ赦すとはひまわりの花の枯れるさびしさ (松実啓子)

 

でした。染野太朗の歌は何度も砂子屋書房の「一首鑑賞」コーナーで取り上げられていますが、結構情念系の歌が多く、読むといつもびっくりします。自分が『短歌タイムカプセル』で知ったためか、

 

たろうさんたろうさんとぼくを呼ぶ義父母に鬱を告げ得ず二年 (染野太朗)

 

みたいな歌や学校の先生として生徒を詠んだ歌から入ったので、「こんな一面が…!」って驚く。でももしかしたら歌集を読むと全然印象が違うのかもしれません。

 

 これは感情的な行き違いの歌として読みました。相手が心変わりしたとか、そういう感じ。そういうのって責めてもどうしようもないし(責めたからまた気持ちが戻ってくるとかちょっとあり得ないし)、だからといって許すのも違う。だから、「忘れず」。そこが落としどころなのかもしれない。

 心変わり、というよりも「浮気」みたいな感じなのかな。離婚は選択せず、これからも一緒に生活していかなくてはならなくて、「不貞行為」そのものは責めたとしても心が自分にないことを責めても何の解決にもならないし、一方で完全に許して何事もなかったかのように暮らしていくことはできないし、だから忘れないまま時間を過ごすしかないんだ、と。

 

 途中で挟まる「馬肥ゆる秋」が気になります。井上法子はこれを

 

わたしは思わず、「馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで」を思い出してしまう。

 

と書いています。「人戀はば人あやむる心」ですよね。誰かを殺したいほどに恋う心が肥大していく。つまり主人公は、相手の人をまだ愛しているんだと思った。愛しているから責めることも許すこともできず、ただ恋心だけが肥大していくんです。相手から受けた傷を「忘れない」まま。あるいは純粋に「天高く」と読んだとして、この情念がどこまでも澄み渡ってゆく感じを受けます。

 

 さっきから「相手」って書いてるんですが、作者が男性なので「彼女」と書きたいところなんですけど、どうも染野太朗の情念系の歌、主人公が女性に思えてしまうんだよな…。不思議です。

 

隠さずにどうしてそれを告げたのかはじめはまるでわからなかった (染野太朗)

 

こういうやつ。これも偏見かな…。

 

 読めば読むほど気になる歌人の一人です。

 

 

でもきっとわたしは六条京極に住んで 責めないなんて言っても (yuifall)

 

 

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