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現代歌人ファイル その131-山田富士郎 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

山田富士郎 

bokutachi.hatenadiary.jp

悪意はもう時代遅れだ花柄の透明の傘街にふはふは

 

 悪意はもう時代遅れ。これはいつの時代の歌なんだろう、と思って解説を見てみると、1987年「アビー・ロードを夢みて」で第33回角川短歌賞、1991年第1歌集「アビー・ロードを夢みて」で第35回現代歌人協会賞、とあるので、80年代後半のようです。バブルの頃なのかな。それにしても、悪意が時代遅れになる時ってくるのだろうか。

 

ビートルズつて何なんだらうきよらかな朝のひかりに不意の欲情

 

今日午後のぼくの心の状態をそつと言はうか両性具有

 

 こんな歌面白いなと思うのですが、「死体」「冷蔵庫」「コイン・ロッカー」「ビートルズ」みたいな時代を写し取ったようなキーワード満載の短歌が多くて、多分今読んでも読み解けない感じがしてます。

 

さんさんと夜の海に降る雪見れば雪はわたつみの暗さを知らず

 

 加藤治郎はこの短歌を「この、無垢な存在が滅んでゆく姿への哀惜の情が、この歌集において達成されている最上の理念であるように思われる」と評しているそうです。山田航はこう書いています。

 

無垢なものは、無垢であるがゆえに滅ばずにはいられない。何にも汚れないものが都市の中でスポイルされてゆくのを見届けている視線が、独特の陰影と苦みとなって感じられるのだろう。

 

 

 全体的にちょっと理解が難しい歌が多かったのですが、

 

宇宙より降りし硝子のあさみどり見て求婚へ心傾く

 

この歌好きです。何度も取り上げましたが、やっぱり吉川宏志の「花水木」の歌思い出します。「愛」とか「求婚」じゃなくてもいいんですが、自分の心がふっと揺れるタイミングを掴んだ歌って好きだなと思います。

 

 

ないものを売るデリバティブ左目の下の瞼の痙攣も売る (yuifall)