山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
佐藤りえ
こなごなになってしまったいいことも嫌な思いも綺麗な粒ね
この歌読んでめっちゃどきっとしました。確かにその通りですね…。粉々になってしまえば同じですね。それでは、「いいこと」と「嫌なこと」が分離できる境界ってどのあたりなんだろう。
駅裏のへんな形にからまった自転車を見て泣いたはつなつ
キラキラに撃たれてやばい 終電で美しが丘に帰れなくなる
歌集タイトルは『フラジャイル』だそうです。「脆い」「こわれやすい」「はかない」という意味ですが、そこに都市詠が重なると、日常は脆いものだ、という印象を受けます。「へんな形」「やばい」という言葉の選び方のある意味「雑さ」がアクセントのように効いている歌だなって思いました。
バームクーヘンが丸くない国へ行く きっとけんかの少ない国へ
「丸くない」のが「けんかの少ない」っていうイメージを不思議に思いました。解説には
「円」のイメージがネガティブな印象とともに描写されることが多いのも特徴だ。本来なら融和や平穏の象徴であるはずの「円」というかたちが、佐藤にとっては崩壊の象徴であり、苦しみの原因でしかなかった。
とあります。「スノードーム」「オレンジの輪切り」「プリンスメロン」など出て来ますが、これらも「丸い」ものの一部なのでしょうか。
蛍光灯の下に集いて家族とはほくろの多き集団なりき
積み木箱の収まりきらないきれっぱしそのように家族は壊れたり
そういえば昔「積み木くずし」ってドラマあったらしいことを思い出した。不良少女の話でしたっけ。解説には
歌集のなかでとりわけ異色を醸し出しているのは、家族を描いた「幻の光」の一連。具体的なことは語らず詩的な表現で家族の不和を表現する手つきに、佐藤の心の奥にあるトラウマが垣間見える。
とあります。
『短歌タイムカプセル』で登場した時は、誰か一緒に暮らす人がいるのかな?って感じがしたのですが、実際のところは分かりません。家族にトラウマがあって「丸い」ものが苦手でも、心の平穏を得られる人生があればいいなと思いました。それが誰かと一緒に暮らすことであってもそうでなくても。
ほほえんでIKEAの棚に並びたいジンジャーブレッドマンのかたちで (yuifall)