「一首鑑賞」の注意書きです。
146.トイレットペーパーの上の金属のやさしい歪み 熱帯夜だね
(服部真里子)
砂子屋書房「一首鑑賞」で永井祐が取り上げていました。
この歌はなんかぱっと見心惹かれます。「熱帯夜だね」がとても好きです。
「金属」「歪み」「熱帯夜」という言葉の連なりから、夜の熱が何かをゆがめているような感覚を受けるのですが、よく考えると「トイレットペーパーの上の金属」は最初から「やさしく歪んで」います。別にこの夜が暑すぎて歪んだわけじゃないんですよね。でもなんか、この夜の暑さによってゆがめられたものがどこかにあるのでは、という錯覚を受けます。
「やさしい歪み」がまたいいなって。普通、熱で歪むとしたらそれは「やさしい」とはならない気がする。めっちゃ熱いだろう。でもトイレットペーパーの上の金属はどことなくひんやりして、手のひらのカーブに沿う「歪み」です。だからこの熱帯夜がゆがませる何かは、きっとやさしいものなんだろう。
情景としてぱっと思い浮かんだのはトイレに窓があるタイプの一軒家でした。窓がうっすら開いてて、「暑いな」って。外からは虫の声とか聞こえてきたりして。リビングや寝室には冷房がかかってるから、トイレに行った時に「熱帯夜だ」って感じたのかなぁと。
でも「熱帯夜だね」という言い方はトイレだけじゃなくて部屋そのものが暑い感じもするので、一人暮らしのワンルームでエアコンとかつけてないような、学生っぽいイメージも受けました。小説なんかで(森見登美彦とかの)貧乏学生がエアコンないような部屋でわちゃわちゃやってるような話が好きで。ノスタルジックだからかな。自分はエアコンない部屋に住んだことないんですけどね。
あるいは、外が暑くて、家に帰ってきてトイレでしーんと一人になった場面かな。
何にせよ、こんな風に視線をフォーカスさせて「熱帯夜だね」という言葉に着地するようなセンスに憧れます。
そして鑑賞文の
一瞬こういう夜を感じたい。
という言葉のセンスもよすぎてときめいた。永井祐の言葉の使い方とても好きです。もっと短歌を読みたくなりました。
息継ぎのようにあかるく月がさすとぎれとぎれの言葉の夜道 (yuifall)
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