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桜前線開架宣言-服部真里子 感想

左右社 出版 山田航編著 「桜前線開架宣言 Born after 1970 現代短歌日本代表」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com 

服部真里子

 

 幻想性を帯びた作風であるが、精霊や幻獣のような異世界的モチーフに頼ってファンタジックにするということはない。花や鳥、四季など現実の自然界に存在するいたってオーソドックスなモチーフを使いながら、言葉と言葉のぶつかり合いのなかで現実を超えたイメージを紡ぎだしていこうとする。

 

 と解説にあり、確かになー、と思いました。この世のものしか出てこないのに幻想的な感じですね。

 

浜木綿と言うきみの唇(くち)うす闇に母音の動きだけ見えている

 

 母音の動きだけってことは「ああいう」だよね。それで「はまゆう」とはなかなか連想しないな…。なんだろう、しいて言えば「はあちゅう」(笑)?我ながら台無しな感じの感想ですね。

 

たとえば火事の記憶 たとえば水仙の切り花 少し痩せたね君は

                                                                                                                                                                            

 なんか、ちょっとどきどきしますね。「少し痩せたね君は」って90年代のJ-popみたいですね。「火事の記憶」から『朱色の研究』(有栖川有栖)連想したわ。

 

届かないものはどうして美しい君がぶどうの種吐いている

 

 も好きだな。ぶどうの種を出す人なんですね。「君」は。スイカの種も出す人かしら。歌に登場する「祖母」はみかんの袋や筋を食べ残すみたいだし、しじみ汁のしじみ食べないのかな(笑)。海老のしっぽとかさ。ちなみに私はぶどうの種もスイカの種もみかんの袋や筋もしじみも海老のしっぽもキウイの皮も食べます(笑)。

 しかし、届かないからこそ美しいのでは?「あなたには届かないから美しいんだ」って、ゲスの極み乙女。も『ロマンスがありあまる』で言ってますし(笑)。

 

 中津昌子が

ぽっかりと我らの席は闇に空きリア王一幕始まりていん

という自分の歌の解説に、「完璧に愛するためにはあなたも私もいない方がいい」と書いている、というのを俵万智が『あなたと読む恋の歌百首』という本で引用しているのを読みましたが(なんてややこしい文章なんだ…)、つまりはあなたも私もいないからこそ愛は完璧である、届かないからこそ美しいんだ、ってことなんじゃなかろうか。

 私見ですが、「完璧に愛するためにはあなたも私もいない方がいい」についてはなんじゃそりゃ?って感じなのですけど(そんな愛、机上の空論であろう)、「届かないものはどうして美しい」については、まあ事実だよね、みたいな感じがします。手が届かないものは自分の見たいようにしか見なくていいし、悪いとこ見えないもんね。他人の赤ちゃんとかペットショップの動物みたいな存在だよね(笑)。「まあー、かわいいー♡」っつってさ。うんことか拭かなくていいし。

 この歌、「美しい」は「届かないもの」と「君」の両方にかかるのではないかと思っているのですが、「届かないもの」=「美しい君」という解釈でいいのだろうか?目の前でぶどうの種を吐いているひとに「届かない」って思うかな?これはやっぱり「あなたも私もいない方がいい」の文脈なのかなぁ。なんというか、「私を好きになるような人なんて好きになれない」みたいな…。もしくは同性愛とか、親兄弟とか、不倫とか、いわゆる禁忌的な何か?でも同性であろうが親兄弟であろうが人のものであろうが、もし「届いて」しまったら、美しくない君も見ることになるんじゃないかと思うんです。この人は本当はどちらが欲しいんだろうなって考えます。

 

 

アルメリアあなたの髪を乱すから夏はわたしの趾を舐めてね (yuifall)

 

 

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