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現代歌人ファイル その181-三枝浩樹 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

三枝浩樹 

bokutachi.hatenadiary.jp

砂浜は海よりはやく昏れゆけり 伝えむとして口ごもる愛

 

さっきまで海をみていしまなざしをしずかに閉じてわがまえにたつ

 

 この人の歌、言葉がすごく綺麗です。解説の最後に

 

「戻らないものに呼びかける」ことは常に祈りの意味合いを帯びている。エバーグリーンな青春歌人として、三枝浩樹はもっと読まれてもいい歌人であると思う。

 

とありますが、確かに青春期と強い親和性のある歌だと感じました。

 この海の二首、ときめくなー。以下妄想ですけど、砂浜はもう暗いけど、海にはまだ日が沈んでいて水平線が赤らんでいて、彼女に思いを伝えたいんだけど彼女は日没をじっと見つめているから何も言えずにその横顔を見てるんですよ。で、日がすっかり沈んでしまってから彼女が視線を移してこちらを向いて、そっと目を閉じるの。

 

喚びかえしおりついおくを、少年の首はさながらキリンのようだ

 

 「少年」をモチーフにした歌も多く引用されています。この「キリン」は何を象徴しているんだろうか。何となくですけど、「少年」という単語からは、弱さ、か細さ、華奢さを捨てて大人にならなければいけないという悲壮さが連想される側面があり、この「キリン」からは、体格と不釣り合いに細い首筋、を想像しました。『残酷な天使のテーゼ』(高橋洋子)のイメージかな…。あの歌は多分「少年」が主人公ですよね。

細い首筋を月明りがうつしてる、世界じゅうの時を止めて閉じ込めたいけど

 

 

街はいま四月の雨にけぶりおりガーベラの火を選る繊い指

 

 この歌も好きです。この「指」の持ち主は女性なんだろうか、それともやはり「少年」なんだろうか。「雨」の中で「火」を選ぶ、というのがなんか破滅的に思えます。消されることを知っていて燃やすような。

 何か、「花」と「暴力」のモチーフを好む、と『桜前線開架宣言』に書かれていた服部真里子の

 

地方都市ひとつを焼きつくすほどのカンナを買って帰り来る姉

 

を思い出しました。

桜前線開架宣言-服部真里子 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

 

 

樺美智子へ! もし一片の恥あらばわが魂の四肢の十字架

 

レギーネへ! 僕の記憶の拡がりの中枢の水ぎわだつかがやきへ

 

 呼びかけの歌も見られます。樺美智子は安保闘争で1960年に亡くなった東大生で、筑波杏明の回で引用した

現代歌人ファイル その78-筑波杏明 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

 

われは一人の死の意味にながく苦しまむ六月一五日の警官として

 

という歌に詠まれている方です。1946年生まれなので、この年まだ14歳くらいですね。この歌はいつ詠まれたんだろうか。

 一方でレギーネはおそらくキルケゴールが一方的に求愛し、一方的に婚約破棄した元婚約者のことかと思うのですが、この名前でググるプリキュアばっかりがひっかかります(笑)。これらの名前と後半の呼びかけの内容がどう呼応するのか、うすぼんやりと分かるような、全く理解していないような、実際よく分かりません。

 

 この人も10代で出会いたかった系の歌人ですね。若いころしか出会えない言葉ってあるから10代の人に色々読んでほしいなーって思うけど、10代は忙しくてそれどころじゃないんですよね…。

 

 

落つるほど赫き果実は慕はしく夜半の寝覚めはゆきてかへらぬ (yuifall)