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現代歌人ファイル その78-筑波杏明 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

筑波杏明 

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われは一人の死の意味にながく苦しまむ六月一五日の警官として

 

 この人の人生が解説に詳しく書かれているのですが、深く同情しました。

 

「六月一五日」とは1960年6月15日の安保闘争で東大生の樺美智子が死亡した日のことである。つまり「一人」とは樺美智子のことだ。筑波はこのとき、デモ隊を鎮圧する機動隊の側にいた。

 

とあります。清原日出夫(その49)の感想の時も書いたのですが、

現代歌人ファイル その49-清原日出夫 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

デモ隊の側はともかくとして、制圧する側は一枚岩じゃないと思うんです。これ書いてた当時ニュースで香港のデモがよく報道されてたんですが、警察だってみんながみんな、国家安全法に賛成してデモ隊を取り締まってるわけじゃないと思う。警察官になってしまったし、家族も職もそこにあったらそうするしかない、って気持ちもあるんじゃないかな。

 

 この人は安保闘争の時代に警察官としてデモ隊と対立することの逡巡を歌にして、その思想を問題視されて辞職したようなのですが、多分言えなくてもデモ隊と対立することが嫌だったりためらっていたりする人はきっと他にもいただろうな、と思いました。そして警察官であるためには思想まで国家に仕えなくてはいけないのか、っていうのがちょっとショックだった。機動隊としての仕事を拒否したならともかく、機動隊として働きながらそれを苦しむことすらダメなの?亡くなった人を悼むことも?声に出してはいけなかったのでしょうか。

 

ふるさとのわが母ほどの老いが組むスクラムなればわれはたぢろぐ

 

 これなんか本当に読んでてつらくて、自分の母親ほどの年齢の女性が組むスクラムを崩せるだろうか。自分は屈強な男で、物理的には簡単だろうけど、そんなこと、って、思うだろうな…(全然関係ないですが、「赤子の手を捻る」って慣用句、「簡単」って意味ですけど、赤子の手を捻るなんてちょっと不可能だな…っていつも思うわ…)。

 第二次世界大戦ナチスドイツのノンフィクションとか時々読むんですけど、ナチスの人間が全て悪だったわけではなくて、強制収容所の職員であっても被収容者に優しかった人、精一杯の誠意を示してくれた人はいた、っていう記載がすごく胸に残ってます。戦後、そういう人たちが戦犯として捕らえられた時、被収容者の方から助命を願い出る声があった、とも。自分が国家の側にいて、周りがみんな「やるしかない」みたいな空気の時、自分の中の正義というかこんなことはしたくない、という声に従うのってものすごく勇気があるし犠牲もあるんだろうけど、その思いがこうやって歌になっていて、今触れさせてもらえることをありがたく思います。

 

思想たがふゆゑに辞めよと迫るこゑ辞められぬわれが堪へて聞きゐつ

 

 この流れで、妻と子があるから辞められない、というような歌や自分が職を追われて妻が立ち惑う、というような歌もあります。1924年生まれだもんなー。。現代だったら、夫がこれだけ苦しんで組織の中で冷遇されていたら「いいよ、辞めなよ、私の稼ぎで暮らそう」って言えるけど、ちょっとそういう時代じゃなかったんでしょうね…。妻子を守るべき自分が自分の思想のために職を辞さざるを得ない、ということへの葛藤は現代の感覚では測り難いです。

 

つきつめて詩歌は武器となり得るや、かかる論にも倦みはてて飲む

 

 短歌が原因で仕事を辞めることになり、「詩歌は武器となり得るや」って、まさに諸刃の剣ですよね。読んでいてすごく苦しいのですが、でも強い人だったんだろうと思います。私だったら言えるかどうか分からない。というか、言えないと思う。普通に機動隊として職務を全うして、仕事だから仕方ない、って思ってしまうと思う。それが悪いのかどうか分からないけど、そんな自分が怖いなと思いました。だって多分そういう人は戦争で人を殺すと思うから。

 

 

「もうみんなしたよ、そういうもんだから」押したボタンは何だったのか (yuifall)