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現代短歌最前線-川野里子 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 川野里子④

 

夜の町に三人の影を重ねゆくわれよりわれらの寂しきことある

 

 家族の歌の中には、こんな寂しい歌もあります。この「三人」は自分と夫と子供なのかなと思いながら読みました。一人でいるよりも三人の方が寂しいこともある。まあ、そうなんですよね。一人でいたら知ることのなかった寂しさもあります。

 

君の想ひにわが思慕うまく重ならずなだれむばかりの灯を積む街は

 

 この「君」は夫のことなのかな。この人の歌をこうやって200首読んで、「夫や子供を得ることで女は否応なしに変わっていかなくてはならない」という一種諦念のようなものを感じたので、もしかしたら、男である夫の変わらなさ、そして自分はその変わらない夫について行くことでふるさとを捨て、親を捨て、かつての自分を捨ててこなければならなかった、という苦しさがあるのかな、と思いました。

 

清潔な包帯空に翻り届かぬところで膿む悲しみは

 

 末尾のエッセイではアメリカでの暮らし、異国から日本語で日本を思うこと、異国を日本語で感じることについて描かれていますが、短歌で詠まれている家族についてはほとんど語られていません。

 

心というのはなぜこうも置き場のないものなのだろう。

 

そう書かれています。なぜだかしんと寂しい気持ちになりました。これほど清潔な包帯があるのに、悲しみはそれの届かないところで膿み続けているんですね。沢口芙美

 

息あつくわれをまく腕耐へてきしかなしみをこそ抱かれたきを

 

を思い出しました。

 

 私の悲しみにあなたは届かない、だから一緒にいても寂しい、というのはすごく分かるけど、その一方で、じゃあ私はあなたの悲しみに届いているんだろうか、って考えることがあります。誰かが自分の悲しみを抱いてくれないことより、私があなたの悲しみを抱けないことの方が寂しいんじゃないだろうか。そして多分80%くらい、他人の悲しみというものには届きようがない、と諦めている面もある。

 この人は「三人」と家族を詠っているので、「わたし」と「あなた」だけじゃなくておそらく「子ども」がいるはずなんですよね。だから、もしかしたらこの「膿む悲しみ」は子供のものなのかもしれないと思いました。私が「清潔な包帯」を持って助けようとしても、子供の持つ悲しみには届かない、という寂しさなのかも。だけど、自分が子供の頃、「悲しみ」を親は救ってくれたかと考えると、多分親が救える「悲しみ」は救ってくれたかもしれないけど、親には届きようがない「悲しみ」、あるいは肉親には救いようがない「悲しみ」ってどうしてもあって、だから仕方ないって思う。みんな、どんなに愛する人であっても届きようがない「悲しみ」を抱えて生きているものなんだと思ってます。

 

 

頭蓋に回転花火の燃ゆる夜はわがたましひのしこりを思ふ (yuifall)

 

 

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