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現代短歌最前線-川野里子 感想3

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

川野里子③

 

背のびしてセロリ見てゐる幼子の発芽のやうなひたむきに逢ふ

 

おもしろき男なりけり妻と仕事といづれと問ふに苦しみをりぬ

 

 他に記憶に残ったのは家族を歌う歌です。子供の「セロリ」の歌はすごくかわいいなと思ったのですが、佐佐木幸綱

 

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず

 

を彷彿とさせますね。

 この歌、ずっと若い恋人のことを詠っていると思っていたのですが、川野里子の歌と並べてみると、もしかしたら子供なのかなって気が急にしました。「あどけなき」「汝を愛する理由はいらず」って、相手が子供と読んだ方がしっくりくるな。でもだからこそ、年若い恋人という読みにもなるのかもしれませんが…。うーんでもなんかじゃあいずれ「あどけなく」なくなった場合、それでも我が子であれば「愛する理由はいらない」けど、恋人or妻であった場合はどうなのだろう…とか考えてしまいました。

 セロリってどうしてあどけないイメージなのだろうか。セロリって葉っぱの部分がわんさか茂ってるから、「発芽のやうなひたむき」なのかなぁ。もしかしたらこの歌の舞台はアメリカかもしれず、日本とはスケールの違う大きさの野菜かもって妄想しました。

 

 夫の「妻と仕事と」の歌は、前回書いた「ふるさとを遠く離れて」、というのにも通じてきて、ああ、この人は夫についていく道を選んだのかな、と感じました。夫の仕事に着いていく形で、山形県、カリフォルニアとふるさとから遠く移動を繰り返したのかなって。

 しかしこの「おもしろき」のニュアンスがよく分からないのですけど、「妻か仕事かどっちが大切か悩むなんて変なの」ってことかしら?これを「おもしろき」って感じるというのは、どちらが大切かは明らかでしょ、って意味なの?私は全てを捨ててあなたの仕事に着いてきたのに、ってことなんだろうか。

 

死んだならまた父さんに逢ふといふ母は葛にて一夜に伸びぬ

 

 両親を歌った歌も多数あります。『短歌タイムカプセル』の感想を書いた時に、

 

わが裡のしづかなる津波てんでんこおかあさんごめん、手を離します

 

という歌を紹介したのですが、この人のお母さんはきっとお父さんに会えたんだ、って、この歌を見てなぜかすごく救われた気持ちになった。人ってみんないつか死ぬし、残された人の心が少しでも軽くなるといいよね。お母さんは、「手を離した」娘に対して、「お父さんに会いに行くのよ」って言ってくれたんじゃないかなと思いました。

 

 

きみだけは光の下を歩めよと石で膨れたはらわた抱ゆ (yuifall)

 

 

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