山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
時田則雄
トレーラーに千個の南瓜と妻を積み霧に濡れつつ野をもどりきぬ
この歌、俵万智の『あなたと読む恋の歌百首』に載ってて印象に残ってました。十勝の農家の人みたいです。
あかときにスノーモービルぶつとばし男融雪剤を噴射す
これとかめちゃくちゃかっこいいですね。圧倒的かっこよさです。私は生粋のインテリ好きで、短歌の内容でいうと千種創一みたいな、「そうだね、」「だめだな、」って感じの線の細そうな歌にすごいときめくんですけど、この人の歌の圧倒的なところは、人類が死滅してもこの人と一緒にいれば生きていけそうだな!ってとこ。そんで、その人が選んだ「妻」もまた強そうなとこがいいんですよ。
二万株の南瓜に水をそそぐ妻麦藁帽を風にそよがせ
指をもて選(すぐ)りたる種子十万粒芽ばえれば声をあげて妻呼ぶ
みたいな、2人とも精神的にも肉体的にもタフそうだし、虫とか余裕の手づかみだろうし、荒川弘の『百姓貴族』思い出したわ。あれは酪農ですけど、ほんと生き物(植物も含む)相手の仕事ってタフだよなって思います。
解説も面白くて、
この大胆な農民生活の詠みぶりは、素直に大平原と農業への憧憬を抱かせる。なんだか楽しそうである。この「楽しそう」であることが何よりも時田の特徴なのだ。決して辛い労働詠などではない。(中略)「野男」はいってみれば自己演出、キャラ付けなのである。「十勝の農民はこうあってほしいなあ」というよそ者の勝手な偏見を、あえて自ら体現してみせている。
なんか、伊藤左千夫の
牛飼が歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる
を思い出しました。実際に作風に影響しているのは佐佐木幸綱だそうですが、私の中で佐佐木幸綱といえば
サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず
って感じだったのですけど、
ジャージーの汗滲むボール横抱きに吾駆けぬけよ吾の男よ
とか紹介されていて、ああ、確かに「男歌」の人だったなぁ、って思いました。佐佐木幸綱、大御所なのに勉強不足ですみません。。しかし、
ロッキングチェアに凭れて妻がいふ 今日の空 ほら 水浅葱色
みたいな歌読んでると、やっぱり「あどけなき汝」の方の影響もあるのかなって気もします。
やっぱなんやかんや言ってもサバイバルできそうな男ってかっこいいし、そういう男性が一緒に働く麦藁帽子の「妻」をまっすぐ愛している感じがすごく愛おしいです。
やんわりと同居を拒む祖母の腰地に沿うように曲がりておりぬ (yuifall)