百人一首現代語訳 感想の注意書きです。
六十七・春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなくたたむ名こそ惜しけれ
千載和歌集 巻一六・雑上・九六四 詞書「二月ばかり月明き夜、二条院にて人あまた居明して物語などし侍りけるに、内侍周防寄り臥して、枕もがなとしのびやかにいふを聞きて、大納言忠家、これを枕にとてかひなを御簾の下よりさし入れて侍りければ、よみ侍りける」 周防内侍
短い春の夜の夢のようなはかない手枕を借りて、
つまらない噂が立つのが惜しい。
冗談は およしになって
あなたの腕を 枕にするなんて
春の夜の ゆめはかなくて
夢が 噂のたねなんて
(さ・え・ら書房 『口語訳詩で味わう百人一首』 佐佐木幸綱)
春の夜の 夢みたいだわ 腕枕
それで噂に なったらごめんね
ぼくを抱く腕しか見えず春宵に沈められゆく声のかなしさ (黒瀬珂欄)
この歌は詞書がめちゃくちゃ長いのですが、解説は多分有名なのでググればすぐ出てきます。「かひなく」は「無駄な噂になる」と、「腕枕」の腕(かいな)の掛詞になっていて、ほんとにこんなシチュエーションでとっさにこんな歌出てくるんかい、この時代の人の駄洒落スキル高すぎだろ、と恐れ入るばかりです。おしゃべりしてたらいきなり腕が差し出されて、それに対して歌詠むんでしょ?これってほんとなのかなぁ。常に大喜利状態じゃん。しかも内容的にも、ふんわりといい感じにお断りしててハイレベルです。
黒瀬珂欄版では、
かつての春の夜の手枕は、今や現代の闇に浮かぶ腕となって、「ぼく」を声なき声とともに沈めてゆくだろう。
と解説されています。
現代版「いきなり腕を差し出す」というと、なんかSNSで女の子のアカウントにいきなりエロ画像送りつけてきたりとかAirDropでエロ画像送りつけたりとかそういう犯罪的なことしか思い浮かばん…。『SNS 少女たちの10日間』というチェコのドキュメンタリー映画観てみたいですがちょっと怖いです。。
黒瀬珂欄の歌では「ぼく」なので、これは「性差を超えたイメージ」なのかもしれないのですがなんとなく中性的な頃の美少年感もあり、森茉莉の『枯葉の寝床』を彷彿とさせます。メリバですね。この場合もう抱かれてしまっているわけで、これは腕をお借りして噂になってしまったヴァージョンですね。そのシチュエーションも想像すると面白いです。
その腕の中には業火、夜桜を焼き尽くす火が、なのにどうして (yuifall)