北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
川野里子②
哀しみと愛しみはひとつ 遠く夜の古木ま白き桜花を噴きぬ
わたくしは太古てぶらで生きてゐたはなみづき力あふれて咲きぬ
異国にいるからこそ焦がれる日本があるんだろうなと思いながら読んだのがこれらの歌です。「日本」とは書いてないのですが、「ま白き桜花」をはじめ、「はなみづき」「花合歓」はどれも日本を描いた光景なのかなと感じました。勝手に万葉集の時代の花をイメージしたのですが、まあ、そのイメージが作者の意図と合致するかどうかはともかく、見ず知らずの人にこんな大いなるイメージを抱かせる歌ってすごいなぁと単純に感動しました。
自分の中には太古から連なるもののイメージってないんだよな…。こういう言葉に出会うとどきっとします。
ふるさとは海峡のかなたさやさやと吾が想はねば消えてゆくべし
異国から焦がれるふるさともあって、他にも「父母さへはるかにかすませながら」「ふるさと捨てたかちちはは捨てたか」という歌もあり、ふるさとはつまり両親の暮らす場所、ということで、そこから遥か遠くへ来てしまったという思いなのかもしれません。
私が死んでしまえばわたくしの心の父はどうなるのだろう
という山崎方代の歌を連想しました。今ここにないものは、自分が忘れてしまったらもう失われてしまう、そう思うと切ないですね。
プリザーブド・フラワー埃を被りゐて死を繰りかへす古木に焦がる (yuifall)
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