書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
川野里子
延命措置「しない」に丸をつけてをり寒雲ひとつわが上(へ)に浮かべ
わが裡のしづかなる津波てんでんこおかあさんごめん、手を離します
2首続けて読んで、ああ、と胸を衝かれるような思いがしました。「津波てんでんこ」というのは、共倒れにならないように、津波が来たらばらばらに逃げろ、肉親にも構わずとにかく自分の命を守れ、という意味ですが、この人はすごく苦しんで、苦しみの末に、自分の命を守らなくてはならなくて、母の延命措置をしない道を選んだのだろうと思った。おかあさんの手を離したのは、いくつの時だったんだろう…。
一人育てしわたしに向きて椿咲き何人殺めてきたかと問ひぬ
っていうのも、生きることへの覚悟が感じられる。でもその一方で、そういう大いなる生命の流れというか、生きていく上で何かを犠牲にしていくということを考えたら、じゃあ何人育てたら帳尻が合うんだろうか?というか人の価値って数なのか?とか色々考えてしまって、まあ本来生きることはシンプルでいいんだけど、シンプルなだけじゃ詩は生まれないなぁとか思いました。
こういう親や子を歌う歌ってすごいなあ、血のつながった相手を特別だと思うことを、その日常を、作品にできる心の鋭さにいつも打ちのめされる感じがします。子育てブログみたいにせず、ちゃんと詩にする感性の鋭さに。
かつて祖父に棄てられしとふびい玉は太平洋の何処にあるらむ (yuifall)
モニターの向こうは無慈悲な波ばかり海岸線が真っ赤に染まる (yuifall)
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