書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
ロッテリアのトイレでキスをするなんてたぶん絶対最初で最後
この歌、最初見た時、キスの相手は女の子なんじゃと思ってどきっとしました。多分「トイレ」っていうシチュエーションが同性を連想させたのかも。ファストフード店だから共用なんでしょうが、「たぶん絶対最初で最後」っていうのも、ケイティ・ペリーの I Kissed a Girl を連想させる感じでさぁ。今夜恋に落ちたってことじゃないのよ♡
他にも
女子たちが幸せでありますように(男子の分は男子が祈る)
も好きだな。
80年代生まれの人の歌は、恋愛関係、男女関係がそれ以上の世代と比べるとフラットな感じがしますね。60年代生まれはバブルっぽいというか素敵な彼氏と私って感じだし、もっと上だと男は仕事女は家庭みたいな感じだけど、70~80年代生まれくらいからは目線が同じくらいになってきてる気がする。まあー、単にロスジェネorゆとりだからお互い恰好つけようがないのかもだけど(笑)
というか自分の前回の短歌ブームが北溟社『現代短歌最前線 上・下』がきっかけで、これは2001年初版発行本で1960年代生まれが「最前線」だった時代のアンソロジー本なのですが、女性の歌が
フェミニズム論じ面接室を出て教授は男ばかりと気づく (大田美和)
生き物をかなしと言いてこのわれに寄りかかるなよ 君は男だ (梅内美華子)
みたいな、ちょっとつっぱってがんばって男女平等を目指す、って目線なのに対して男性は
それはだつて結局つまりうるさいな毎晩ちやんと抱いてるだらう (荻原裕幸)
春さむし背のファスナーを下ろす間も「明日の仕事」を言ふ女(ひと)に似て (大塚寅彦)
みたいに、男女のスタンスに差があるように感じたんですよね。自立したがってる女と、強がってるけどかわいがってやるよ、みたいな男と。
それが今回2018年発行の『短歌タイムカプセル』で80年代生まれまでの歌人の作品と接して、なんかそういうジェンダー性(社会的性差)を感じさせる歌が減ったような気がするなぁというか、男の人がやさしくなったな、って思ってちょっとときめいた。
拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません (笹井宏之)
TOEFLで点がとれない 手をつなぐ以上のことを想像しない (千種創一)
妻と児を待つ交差点 孕みえぬ男たること申し訳なし (黒瀬珂瀾)
みたいな歌とか、女性だと
ホットケーキ持たせて夫送りだすホットケーキは涙が拭ける (雪舟えま)
みたいな感じで。
この人の歌、アンソロジーの20首の中に2001年の歌集のものから2011年のものまで入っていて、ナイーブな高校生の女の子がナイーブな大人になってくのを見ているようでちょっと心が痛みました。誰もが自分を重ねやすい作風だなぁと思います。変に難解だったりしてなくて、まっすぐだから。
おんなのこでいることずっと隠してたスターシップがこわかったのも (yuifall)
埼玉のホテルの廊下でゲロ吐いてそのままきみにキスしたかった (yuifall)