山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
江戸雪
なめらかにフロントガラス光らせてガソリン不足のまま走る 海
この人は『現代短歌最前線』で奥村晃作に「男との距離感が掴めていない歌」と評されていましたが、山田航の解説によれば
江戸の歌の特徴は「液体感覚」と評される。世界に対して不定形の〈私〉という自己像があり、自分自身のかたちを保つために必死になっているような焦燥感がみてとれる。
ということのようです。
ゆうぐれは手をつながずにいたほうが君といられるような気がする
飛びあがり掴んだ枝はやわらかく あきらめ方がよくわからない
自分の精神も肉体も「液体」であって「不定形」だから相手との距離感を掴みかねる、ってことなのかな。この人の、欠けている、あるいは届かない、という灼けつくような感覚の歌が好きです。
最後に母になった後の歌がいくつか紹介されています。
わが身体えぐり生まれしおさなごは月光のごとしずかに坐る
出産、育児、さらに第二子の流産という出来事もあったらしい。(中略)出産の経験は、自身の肉体もまたひとつの容器であるという思いに至らせてくれたのかもしれない。肉体の定型と精神の定型をともに手に入れた江戸の短歌は、これからも進化してゆくことだろう。
「身体えぐる」わけですから、そこには肉体があるんですね。もうお子さんは成人近いのだろうか?『現代短歌最前線』の頃の歌は好きでよく読んでいたのですが、最近の歌を知らず…。「男との距離がつかめていない」と評されていた頃の「液体感覚」の時期を過ぎて、壮年となった今の歌も読んでみたいです。
諦めることいつまでも慣れないし雨をはじいて蜘蛛の巣光る (yuifall)
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