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現代歌人ファイル その166-大塚寅彦 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

大塚寅彦 

bokutachi.hatenadiary.jp

をさなさははたかりそめの老いに似て春雪かづきゐたるわが髪

 

 『現代短歌最前線』でも紹介して、言葉の使い方がとっても素敵だなーとかアホな感想書いたのですが、デビュー当時21歳だそうです。よく「早熟の歌人」として名が挙がる印象の強い人ですが、ここではその後に出された第2、第3歌集からも引用されており、

 

星の夜の回転ドアの回転に複数形のきみ見えしこと

 

なんかも好きだな。回転ドアを歩いてるっていうそのまんまなのですけど、それだけの情景を美しい詩にする力がすごいなって思いました。第1歌集に比べるとポップカルチャーなどを題材にした軽い言い回しになっていて、

 

浮光掬ひ得たるごとしもひそやかに唇(くち)づけたるに君の醒めざる

 

という言葉遣いが、その後

 

口紅のつきしストロー立ちしまま僕らの夏のテーブルは暮る

 

という言葉遣いになるのも面白いです。 

 

 ところで

 

モニターにきみは映れり 微笑をみえない走査線に割かれて

 

を読んで、なんか似てる歌どこかで見たような…って思ってたのですけど

 

オルガスムスに達するきみが数知れぬヴィデオ画面にゆらめける夜夜

 

ですね。これもこの人の作品でした。つまりこの「微笑みをみえない走査線に割かれて」いる「きみ」はおそらくセクシー女優さんなのかなぁと思いました。まあ、全く違うテーマの歌なのかもしれないけど…。でも「微笑みを割かれて」というのは、ほんとうは微笑みたくなんてない、っていう彼女の心の中を見詰めているような気もします。

 

 解説によれば

 

大塚寅彦は歌人としては早熟であまりにピークが早かったショートランナーのうちに数えられてしまうだろう。しかし、永遠の青春を一瞬に閉じ込めることへの憧れ、何よりも美に奉仕する人生の素晴らしさ、春日井建が抱き続けた美学を今も継承する存在として、貴重である。

 

とあります。今も歌人をしてるのだろうか、それとももう詠まれてはいないのだろうか。村木道彦や大塚寅彦を始め、「早熟でピークが早かった」と評される歌人は散見されますが、短歌は青春文学とも言われるし、若い頃に優れた作品をたくさん残しただけでも十分素晴らしい業績なんじゃないのかなぁと思います。ですが、やっぱり早熟すぎることは人生においてはあまり幸福でないかもしれないし、才能って残酷なものかもしれないなーと遠くから思ったりもします。

 

 

警報に揺るる鈴蘭 遮断機の落つ玉響の具象となして (yuifall)

 

 

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