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小林恭二 『短歌パラダイス』感想 2-4「嘘」

『短歌パラダイス』感想の注意書きおよび歌合一日目、二日目のルールはこちらです。

yuifall.hatenablog.com

 

 第四戦は「嘘」です。

 

美しき嘘つくたびに半歩ずつ恋人の耳すり寄りてくる (一郎次郎)

祖母のみる<嘘>とろとろと花豆のつやめいてくる仏具屋の奥 (七福猫)

昨日(きぞ)の夜の酔いはぼろぼろ脈絡のいずこに君の嘘を許せし (ぐるぐる)

 

 

美しき嘘つくたびに半歩ずつ恋人の耳すり寄りてくる (一郎次郎)

 

 「一郎次郎」の歌は、そのまま読むと、私が恋人に美しい嘘をつく。その嘘が聞きたくて、恋人の耳が半歩ずつすり寄ってくる。という意味かと思います。

 この歌だと、「美しき嘘」は、「きれいだよ」とか「永遠に好き」とかそういうたぐいの言葉かなぁと。で、おそらく恋人の心はそれを別に信じているわけじゃなくて、お互いにそれは分かっていて、まあ言うだけならタダだし(私)と聞くだけなら心地よいし(恋人)の関係のまま、でも「美しき噓」は耳には優しいから、とりあえず聞かせておいてね、みたいな感じがします。本当に切実に、嘘でも言って、あなたの言ったことなら信じるわ、っていう状況なら、すり寄ってくるのは「耳」だけじゃないんじゃないかな。

 議論では「美しい嘘」をついたのは誰か。なぜ「耳」がすり寄ってくると書いたのか、「半歩ずつ」とは何か、といったところが解釈されていますが、どれもそれほどとびぬけた解釈はありませんでした。判者の高橋睦郎が、「美しき嘘」をついたのは自分ではなく恋人である、そして恋人は嘘をつきながら、まるで自分の耳への愛撫を求めるようにしてすり寄ってくる、という解釈をしており、面白いなと思いました。

 

 

祖母のみる<嘘>とろとろと花豆のつやめいてくる仏具屋の奥 (七福猫)

 

 「七福猫」の歌は、仏具屋の奥で祖母が花豆をとろとろと煮込んでいて、そこに<嘘>を見ている。花豆がつやめいてくる。という光景でしょうか。この<嘘>も、「美しき噓」な気がします。一体「祖母」がみる<嘘>って何のことだろうか。別の人生なのかな、って気もします。「仏具屋」に象徴される死の匂いもあるし、もし違う人生だったら、みたいな<嘘>が煮込まれてつやめいていく感じ。

 議論では、「祖母」や「仏具屋」といった言葉に寺山修司のイメージが重ねられています。

 

大工町寺町米町仏町老母買ふ町あらずやつばめよ

たつた一つの嫁入道具の仏壇を義眼のうつるまで磨くなり

 

といった歌のイメージのようです。これに対して、

 

寺山修司のイメージを持ち出す作り方が短絡的(俵)

 

と指摘があり、更に

 

・<>が目障り(加藤)(永田)

・「嘘」に「みる」はない(小池)

・「仏具屋の奥」も安易(穂村)

 

と散々でした。解釈すらほとんどされてないし…。2日目の戦いを3チームにした理由として、「2人の直接対決よりも敗者のショックがやわらぐ」とありましたが、逆に2チームの集中砲火を浴びるとつらいですね…。本文中に味方チームの擁護コメントがほとんど掲載されていないのも悲しい…。

 

 

昨日(きぞ)の夜の酔いはぼろぼろ脈絡のいずこに君の嘘を許せし (ぐるぐる)

 

 「ぐるぐる」の歌は、昨日の夜君は酔っぱらっていてぼろぼろと脈絡のない嘘をついていたよ、私はなんであんな嘘を許したんだろう、という意味に取れます。自分も一緒に飲んでいて酔っぱらっていたからじゃないの?と思ってしまいました(笑)。小林恭二は、作者は男性で、「君」も男の友人であろうと読んでいます。私は恋の歌として読んでもいいかなーと思いました。なんであんなしょうもない嘘許しちゃったんだろう、という、演歌っぽい感じですね(笑)。

 この歌に対してはほとんど批判は出なかったそうなのですが、実は「七福猫」の歌と構造がほとんど同じであると小林恭二は指摘しています。

 

 

 この中から選ぶとしたらどれだろうか…。一番意味が分かりやすいのは「ぐるぐる」だけど、何となく心惹かれるのは「一郎次郎」の歌です。でもなー、「美しき噓」はちょっと言葉の使い方として安易かなって気がしないでもない。「七福猫」は私にはちょっと難解です。。結局は「ぐるぐる」になるのかな。

 

 それにしても「嘘」っていうと寺山修司

 

ダリアの蟻灰皿にたどりつくまでをうつくしき嘘まとめつついき

 

を思い出してしまいます。歌人にとって「嘘」と寺山修司は切り離せない存在なのかも…。

 「一郎次郎」は道浦母都子、「七福猫」は東直子、「ぐるぐる」は永田和宏でした。

 

 

ほら、あれがあなたのスペア くりかえし夢で死ぬのも思い出も嘘 (yuifall)