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現代短歌最前線-大塚寅彦 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

大塚寅彦④

 

春さむし背のファスナーを下ろす間も「明日の仕事」を言ふ女(ひと)に似て

 

 この歌、解説で「新しい喩の創出」と書かれています。つまり、「春さむし」が本文で、以下が全部その春の比喩表現となっていると。

 

背のファスナーを引き下ろすほんのわずかな時間でさえも「明日の仕事」のことを口にする女の如き<うそ寒さ>である。

 

と、書かれていました。比喩表現の新しさとしては納得する一方で、女としてこの一首を読むとなんじゃそりゃと思わなくもない(笑)。むしろ明日も仕事大変なのにもー疲れたしめんどくせーっていう気持ちが(笑)。

 まー、どういう雰囲気でどういう状況なのか分からないのでどちらが悪いとも言いがたいのですが(2人でバーに行って酒飲んでホテルで、とかだったらさすがに興ざめやろってなるし)、一方的に<うそ寒い>と言われると若干の反感を覚えますね(笑)。まあ単純にこんな時に仕事の話なんてしないでよ、っていうのは男女問わずの感覚なんだとも思うのですけど。

 

 時々読み返す本に『ミレニアム』三部作(スティーグ・ラーソン)があるのですけど、この主人公、ミカエル・ブルムクヴィスト(北欧ミステリーって面白いけど名前が覚えにくい…)って人、めちゃくちゃ女たらしなんですよね。42歳男性なのですが、毎回必ず言い寄られて女性といい感じになってます。でも不思議と、消極的な俺に群がる女たちハーレム的反感はなくて、まず第一にいい感じになる女性がだいたい年齢高め(もう一人の主人公のリスベットを除けば、30代後半~50代後半)ですし、第二に、というかこれが一番重要だと思うのが、彼女たちと、敬意と信頼からなる友情を築いてるんですよね。それこそベッドの中で女性と仕事の話しまくりですし。女性の話す内容をどんな時でも真剣に受け止めるし、「きみは大人の女性だよ。きみがどんなふうに振舞ってもそれはきみの自由だ」っていうスタンスで。

 これはセックスが日常の延長にあるからなのか、男女平等指数の高い北欧だからなのか、『ミレニアム』のテーマが女性に対する暴力や搾取への反対だからあえてそういうヒーロー像に設定しているのか、それは分かりません。ですが、おそらく「明日の仕事」の話が<うそ寒く>感じるかどうかは、実は一般的な感覚と断定できるものではなく、性格や相手との関係性によるのかなとも思いました。

 

男なるこの肉体を容れぬとき聖霊の風はらむシャツあり

 

 しかし一方ではこんな歌もあり、男性が「男なるこの肉体を容れぬ」って思う瞬間ってどんな時なんだろう、って切なくなってしまった。これは私の想像力が及ばない範疇のことですね。もしかしたら言葉で描くことはできるかもしれないのですが、実感できることは決してないだろうし…。

 

真夏へのエチュード 駆くる少年の花車な楽器のごとき自転車

 

 だけどこんな歌を読むと、やっぱり「少年」であった自分を慈しむ思いもあるんじゃないかなって思いました。きゃしゃなのは少年の方なんじゃないかと思わせるような比喩ですよね。永田和宏の青春時代の歌とかもですけど、男の人が少年を詠む歌にときめくなー。多分、知らないからなんだろうけど。どんな気持ちで何を夢見てきたのか。

 

 「春さむし」の歌の本歌取り作ってみた。やや挑戦的かもしれません(笑)。

 

 

夏疎し容れらるること当然とファスナー下ろす男にも似て (yuifall)

 

 

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