北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
江戸雪②
知っているつもりでいたけど雨のなか君はひかりをみていたんだね
前回「相手とのへだたり」と書きましたが、一方で小高賢編著の『現代の歌人140』では、江戸雪の歌集について、
爽やかですっきりしている。とはいって、薄味ではない。シャープな感覚の目立つ歌集だった。
と書かれています。この歌についても、奥村晃作は「男との距離感がつかめていない」歌の一つとしてとらえていますが、私はそこまでは感じなかったなー。知っているつもりでいた人のことを改めて意識する瞬間、というかさ。
葉の匂いざあと浴びつつさきほどの「君って」の続き気になっている
小高賢はこの歌について
瞬間の切り取りが新鮮だ。角度がいいのだろう。いったい自分はどう思われているのだろうか。甘やかさとともに、かすかな好奇心も覗く。はつらつとした心の動きが、読み手に伝わってくるのだ。
と書いていて、おー、奥村晃作とは全然違う視点!と感動してしまった。同じ人の短歌がこれほど違った印象で読まれるっていうのが本当に面白いですね。だから解説付きアンソロジーはやめられないです(笑)。そして文学に目の肥えた人が読んでも解釈が分かれるのだから、それはある意味、自分もどう受け止めてもいいんだなって思って励まされます。
この歌好きだなー。(妄想ですが)、初夏、恋人と外を歩いてて、彼が「君って」って何か言いかけるんだけど何かのタイミングでその先を言わなくて(時代が分かんないけど、携帯に電話かかってきたとか、誰かに話しかけられたとか、物を落っことしたとか)、そこにざあって風が吹いてきて木が揺れて葉っぱの匂いが濃くなって、ああ、この人はさっき何を言おうとしてたんだろう、って。
この続きは結局聞けたんだろうか、聞けなかったんだろうか。多分聞けなかったんじゃないかなって気がします。そして、多分言おうとしていた内容も大したことじゃなかったんじゃないかなって。
くちなしの濃き道 先をゆく君の夏とわたしの夏のあわいに
この歌なんかも、読み方でだいぶ意味合いが変わりそう。くちなし=「口無し」と読んで、あなたと私の間には濃い沈黙もしくは言えないことがある、っていう読み方もできそうだし、くちなし=「私は幸せ」「胸に秘めた愛」(花言葉です)と読んで、あなたと私の間には愛や幸せがある、とも読めそう。面白いなー。こういう、いろんな解釈が可能な歌っていいですね。
そうじゃなくきみは象牙のクイーンで「使いこなしてみろ」って笑う (yuifall)
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