いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

震災詠2021

震災詠2021

 

あの日々をどう詩にするか分からないどんな言葉も嘘って思う

繋がった瞬間切れた3月の電話番号今はもうない

「だいじょぶか」って叫んだ声が宙に浮く あんなに愛した海だったのに

墓と船は無事 瓦礫を避難所を祖母を求めて流離う父は

いざという時落ちあう約束の場所も そこへも波は来ていて

 

ポケットに忘れた指輪取るために戻った立ち入り禁止区域に

ガラスガラスガラスの群れを踏みつけてひとりぼっちの廊下を歩く

タンブラーにはコーヒーがまだ残ってて 倒れなかったのか、って後から

街一つと連絡つかず 新聞の見出しにゴシック体が毎日

中断のたびに死者数増えていき ひっきりなしの地震速報

モニターの向こうは無慈悲な波ばかり海岸線が真っ赤に染まる

避難所に雪海に雪窓に雪「殺しに来てる」と誰かが低く

信号のない真夜中を送られて 落としたストラップのこと言えなくて

 

 

証言

全員を2階に上げて 胸まで水が来て 俺も死ぬとこだった

母も、はい、流されました 式に仕立てた着物だけ、赤の

停電のないICU、ヘリの轟音 地面の揺れには慣れてしまった

最前線に行けない自分を無力だと思う 今でもそう思ってる

夫なら介護施設におりまして、それきりですよ、戻りませんよ

あまりにも多くのことがありすぎて 菓子パンばっかり食べて 吐いてた

スケジュール通り採卵したんです。ホルモン剤も打ってましたし。

友達が想定外の妊娠で…。桃の缶詰をあげたんです、私。

あの時の妊婦さんとか赤ちゃんのママはどれだけ不安だったか。

五階でしょう、家帰れないの、心臓が悪いから、それでこうなっちゃって

ガソリンがなくてあなたに会えなくてバスはいつでも長蛇の列で

「お湯出なくていいからシャワー貸して」って口実だったよね、ありがとう

透析も在宅酸素もあるでしょう、停電だって止められないの。

育ててた細胞みんな死んでたよ、でもそれどころじゃなかったからなぁ

霊安室で寝泊まりしてさ、それからは検視。身元が分からないから。

歯を血液を持ち物を 少しでも何か希望がそこにあるなら

 

これまでに 歯 を 4本ぬいたのです

だから

みつけてもらえます よね?

 

 

あの日より海岸線を疵となし笹船ひとつ擱座してゐる

かつて祖父に棄てられしとふびい玉は太平洋の何処にあるらむ

思ひ出の手綱を引きし一葉の海、定期船、そして頬擦り

藤壷を硝子玉ごと踏みしめて貝墟はいつも曇天なりき

堤防は目の前だつた 花火より低かつた いつも鮭くさかつた

癒合するFISH検査の輝きに魚群探知機思ひ出づるも

 

「お迎えが来るから海さは行ぐなよ」と言ひゐし祖父の盆の葬列

鬼子母神のように産んでは奪うのね盆提灯のかがり火は揺れ

浜茄子はどこでも咲くよ砂丘にも固定資産税ゼロの土地にも

本当に行きたい場所は一つです2009年の夏の海です

ともし火は見えていますかたましいの置き場のような埠頭にいます

大漁旗のみ還りきて海は凪ぎ おいで、泣いてもいいんだからね

 

 

#東日本大震災から10年 #短歌 #震災詠