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現代短歌最前線-荻原裕幸 感想2

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

荻原裕幸

 

まだ何もしてゐないのに時代といふ牙が優しくわれ噛み殺す

 

桃よりも梨の歯ざはり愛するを時代は桃にちかき歯ざはり

 

 こういう歌を見ると、「時代にスポイルされている自分」というスタンスなのでしょうか。62年生まれだから、ググってみると「新人類」と言われている世代らしく、以下引用ですが

www.nippon.com

経済人類学者の栗本慎一郎氏の造語。大学生になる頃には、学生運動はすっかり下火となり、政治的な熱が冷めた世代。高度経済成長期と子ども時代が重なるため、戦中世代や戦後のモノ不足を知る世代からは、「忍耐力がない」「甘えている」「常識が通じない」と揶揄された。その新人類も50代となり、ゆとり世代を「最近の若者は忍耐力がない」と嘆く。

 

だそうです。穂村弘が『ぼくの短歌ノート』で書いていた、

 

1980年代から短歌の世界に、それまでの文語とは異なる日常的な口語を用いた作品が目立ち始めた。作り手は二十代の若者たちで(中略)、今振り返ってみると、口語短歌を巡る毀誉褒貶は単なる文体上の問題ではなかったことに気づく。(中略)口語系の作者の作る歌の背後には、ほとんど無意識的な欲望の肯定があった。高度経済成長期に子供時代を過ごし、バブル期に青春を迎えたこの世代は、感受性の中に欲望の肯定を織り込まれている。

 

って解説と重なるよな。何でもあるし欲しいものはちょっと手を伸ばせば簡単に手に入るし困ったことはないし、上の世代の苦悩や上昇志向が理解できず、なんでそんなことで苦労するん?買ってまで苦労するとかアホなの?っていう第一世代なのかなと。だから「世界と波長があわないと感じたことはない」のかな。その後氷河期を挟んでゆとり世代が24時間働くとかアホなの?って第二世代なのかなって気がします(笑)。

 

戦争が(どの戦争が?)終つたら紫陽花を見にゆくつもりです

 

 これは戦争についての歌なんですけど、私はこういう歌に対してどう感じていいか分からないんですよね…。この人自身は第二次世界大戦を知らない世代なのかもだけど、多分「どの戦争が?」っていう言葉からは、その後の戦争(湾岸戦争とかイラク戦争とか)やテロ事件(サリン事件とか9.11とか)も含めた全ての「戦争」的なるものが「いつ終わるのか」、といった意味合いなのかなって気もして。。60年代生まれってことは、親か少なくとも祖父世代は大戦経験者だろうし。

 『現代短歌最前線』に含まれている作品をはじめ、この年代の歌人の、例えば江戸雪の

 

戦争に行ってあげるわ熱い雨やさしくさける君のかわりに

 

とか、穂村弘

 

電車のなかでもセックスをせよ戦争へゆくのはきっときみたちだから

 

とか、加藤治郎

 

にぎやかに釜飯の鶏ゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった

 

とか、どう受け止めていいのか解釈できないんですよね…。山中千恵子(1925年生まれ)の

 

一九四五年夏なかりせばこの世紀老いることなけむ

 

とか、寺山修司(1935年生まれ)の

 

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

 

とか読むと、気迫が違うと思うもん。でも一方で、ガチの戦争世代じゃないと戦争を歌えないのか、っていう葛藤もあって。そうじゃないはず、多分、反戦とか、逆にナショナリズムとか、何らかのスタンスは誰にでもあると思うんだよね。その中で伊藤一彦の

 

三割がPTSDといふ帰還兵 残る七割の「正常」思ふ

 

は分かるな、って思ったけど、この人も1943年生まれか…。でも、終戦の時2歳だから、戦後世代なのかな。

 

 自分の人生、まあまだ全然途上ですけどそれでも今までしんどいこともたくさんあったのですが、やっぱり大正生まれ、昭和ヒトケタ生まれ世代の話を聞くと、生きづらさのレベルが全然違うと思いました。特に女性はそうですね。なので、60年代生まれの男性が詠む「戦争」の歌に対して、どういうリアクションを取っていいのか分からないというのが正直なところであり、読み方を教えてほしいなと思っています。

 

 

醤油瓶抱いて赤子を背に負ぶい峠を越えたこともなしわれは (yuifall)

あの日々をどう詩にするか分からないどんな言葉も嘘って思う (yuifall)

 

 

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