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短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

短歌タイムカプセル-野口あや子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 野口あや子

 

頑張っている女の子とか辛いからわたしはマカロンみたいに生きる

 

 この歌は自分がめちゃくちゃ頑張ってて辛い時に出会ったのですが、だよねーって思った。頑張ってる自分って痛いなって。この歌に共感できるのは、多分、本当にマカロンみたいな女の子は、短歌なんか詠まないだろうなって思うからかも。歌を詠んだりそれを読んだりするとき、多分マカロンみたいじゃない。だから、批判されてたり見下されてるようには感じないんだと思う。多分この歌作った時この人はマカロンみたいじゃなくて、マカロンみたいに生きたいって思ったんじゃないかなって気がします。

 もしくは、もう自分が女の子じゃないって分かっているからかな…。頑張っているけど、女の子ではないなって。だから仕方ないって思ったのかも。

 

 マカロンは綺麗でかわいくて壊れやすくて高級で大事に扱われて消費期限が短くて、若い女の子みたいだよなー、本当に。多分自分にもマカロンみたいだった頃があったのかもな。若い女の子に「悩みなさそうでいいね」っていう大人がかつてはむかついたものですが、今となっては、そんなに若くて綺麗な頃は短いんだから思い悩まず楽しんでほしいという切ない願いだったのかも。まあ、とはいえ悩みのない若者などいるはずもなく、「悩みなさそう」ってなんて無神経な言い草なんだろうと今となっても思いますけど…。こういうこと言う人って若い頃悩みなかったんかな(笑)。

 

 他には

 

苺ジャム、こんなにおいしいものはない、あなたの髪に塗ってあげたい

 

も好きだな。塗った後舐めんのかなーとか考えるとときめきます。

 

 ちなみに「GrapeSEED」という英語学習教材に「Jam」って歌?があって、

 

Jam on my pancake. Jam on my bread. Jam in my donut, but not on my head!

 

って内容なのですけど、もともとこの教材の方を先に知ってて、それから野口あや子の短歌に出会って、ちょっとびっくりした。ジャムを頭に乗せるって、なんか共通の元ネタがあるのか?それとも単にたまたま発想がかぶっただけなのか?すごい偶然?でびっくりしました。

 

 

血を流す身体なんかは捨てちゃうしドライヤーより歌うよ聞いて (yuifall)

赤ければいいってわけじゃないはずでジャムの代わりになれないわたし (yuifall)

 

 

桜前線開架宣言-野口あや子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

桜前線開架宣言-野口あや子 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代歌人ファイル その163-野口あや子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-西田政史 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 西田政史

 

何かきみに話さむとしてアメリカのGreyhoundとふバスを思ふ

 

 Greyhoundはアメリカの長距離バスなんですね。Greyhoundでググると犬の種類や戦争映画などがひっかかりますね。てかこの映画、2020年じゃん。今年じゃん。まだ関係がそれほど深まっていない彼女と2人でいて、まだ沈黙に慣れなくて、何か話さなきゃって思い浮かんだのがこの話だったのかな。長距離バスってことは、住んでたというより旅行した時の思い出なのかなという気がします。

 

ピザパイの中にときどきG#7があり噛みくだけない

 

 これはギターコードの「ジーシャープセブンス」ですよね。全然意味が分からないけど好きな歌です。なんかこういうの、J-popっぽいよね。全然歌詞の意味分からんけどなんか好きみたいな(笑)

 

憂鬱はわりに好きだよなまぬるいピクルスに似たところもないし

 

 これもね、なまぬるいピクルスが嫌いだってことだけは分かった(笑)。でも憂鬱ってなまぬるいピクルスっぽくないですか、そう言われちゃうと逆にさ。「考えちゃダメ」とか言われると考えたくなるあれみたいだな。

 

 ところで後から知ったのですが(荻原裕幸の感想の時にも書いたのですが)、この人はニューウェーブを牽引した4人のうちの1人のようです。それを知る以前に、簡単に「J-popっぽい」などと書きましたが、これはJ-pop(の意味不明な歌詞)に慣れ親しんだ世代の感覚であり、本当はこんなにあっさり受け流してはいけないものなのかも…。ポストニューウェーブ短歌と同時並行で読むと、「G#7」にはそれほど違和感ないですよね…。この人がそういう流れを作ったからこそなんだろうな。

 

 

仰向けで林檎を齧る男いてCaltrainは海辺へ向かう (yuifall)

Moss Valeできみとタコスを食べたよね美人でいるのは楽しかったな (yuifall)

 

 

現代歌人ファイル その100-西田政史 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-中山明 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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中山明

 

ひぐらしが鳴くまで きみに初めてのながい唇づけをしてしまふまで

 

 ロマンチックですね!デートしてて、本当はずっとキスしたくて、いつならいいかなってどきどきしていて、夕方になってひぐらしが鳴き始める頃、ようやくそういう雰囲気に、みたいな…。

 これは「初めての」は「唇づけ」にかかるのかしら、それとも「ながい」にかかるのかな。短いキスはしたことあったのかな。軽い気持ちじゃなくて、本当に好きなんだよって感じでいいな。ひぐらしが鳴いてて野外で「ながい唇づけ」をしてるんだから、ちょっと田舎というか人気のない場所なのかなって気がしてます。「してしまふ」んだから軽い感じじゃないだろうし、そうすると都会のど真ん中の公園とかそういう人目の多いところではなかろう(笑)。

 

わたくしはわたくしだけの河に行く ゆめのほとりのきみに逢ふため

 

 これもロマンチックですね。七夕的な想像をしてしまいますね。

 

 

あたらしい蝉の抜け殻できるまでキスを続けていいよ このまま (yuifall)

 

 

現代歌人ファイル その130-中山明 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-永田紅 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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永田紅

 

ほうたるのひかり追いつつ聞くときにルシフェラーゼは女の名前

 

 この人は農学博士で細胞生物学研究者のようです。河野裕子永田和宏の娘だよね。文学と科学が常に間近にある環境で育つってどういう感じなんだろう。こういう歌ができるんですね。ルシフェラーゼは女の名前か…。面白いな。シロガネーゼみたいな感じか(笑)?

 

抗体用のウサギに草を食ませいき戻らぬ日々とはこういうことだ

 

 これは父・永田和宏

 

採血の終わりしウサギが量感ほのぼのとして窓辺にありし

 

本歌取り?とか一瞬思ったのですが、実験用のウサギ繋がりなだけですね。。抗体を作ったことがないので作り方分からないのですが、やっぱり殺してしまうのかな。それとも単純に、実験系は始めてしまったらもう突き進むしかないということ?「戻らぬ日々」に研究者としての心の痛みのようなものを感じました。

 

 

デートよりpunctualに会っているクリーンベンチで癌細胞に (yuifall)

癒合するFISH検査の輝きに魚群探知機思ひ出づるも (yuifall)

 

短歌タイムカプセル-永田和宏 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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永田和宏

 

あの胸が岬のように遠かった。畜生! いつまでおれの少年

 

 この歌に出会った時の衝撃は忘れられません。こんなに鮮やかに少年時代の焦燥を切り取った歌があるかなと思います。そしてその先にいるのが、妻になる河野裕子なんだと思うとものすごくときめくし胸がぎゅっとします。。

 

きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり

 

もですけど、若い頃の恋の歌がとってもとってもいいなぁ。少年と海、っていうモチーフが好きで、寺山修司

 

海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり

 

流産をしたる我が猫ステッフィに海を見せたし童貞の日の

 

とかすごい好きなんですよね。こういう、少年だったことがある人しか詠めない歌。

 

 この人の『たとへば君』に心の底から感動したのですが、冒頭で奥さんとの出会いについて書いていて、内容もそうだし、40年前の恋をこれほど鮮やかに率直に描けるというそのこと自体に涙が出るほど心を揺さぶられました。40年間、愛し合ったといってももちろん穏やかな日々ばかりではなかったようなのですが、お互いを思いあって過ごした日々がつづられていて。出会いから河野裕子の死までが率直に描かれていて、読んでて本当に泣きました。

 

 ちなみにこの人は細胞生物学の研究者としても著名な方ですが、『タンパク質の一生』という本面白かったです。一般新書なので学術書としては非常に基本的な内容なのですが、読みやすかったし、研究に対する熱意が伝わってきてうきうきしました。詳しい研究内容知りたかったら論文読めって話ですよね…。ちょっとググったら2017年~2019年の論文がいくつか引っかかったのでAbstractだけざっと読みました。

 しかしこういうの読んでると、自分の人生って何なんだろうな…とか考えてしまって駄目ですね…。こうやって複数の分野でご活躍されている方もいるのになぁ。。いやー、比べんなって話ですけど(笑)。

 

 

傷痕として初恋を語るとき処女のわたしの憎しみにあう (yuifall)

繰り返し一方向にミオシンを歩かせているぼくのクリック (yuifall)

 

 

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短歌タイムカプセル-中島裕介 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 中島裕介

 

モルヒネを打たずに心を縫うような痛みだ今日の空の高さは

 

 時々空を見上げるだけで心がめちゃくちゃ痛む日ってありますよね。これ読んではっとしたのは、痛いのが特別なんじゃなく、痛くないのが麻痺してたんだっていう、コペルニクス的転回の瞬間だったからです。本当は心は世界に対して無防備で痛いもので、でも普段は麻酔をかけていて、だけど不意にその切れ目というか無防備に晒される時間があるんだなって。

 

 あと面白かったのは携帯の予測変換機能だけを使って作歌したという

 

後半の文学的な意味でいい天気予報は当たらないから

 

ですかね。なんかいい感じに意味深になってて面白いです。そういえばAIに短歌だか俳句だか詠ませたっていう企画があったような。意味不明に思わせぶりな作品がたくさんできそう。そういう自分の思考を超えたところにあるものに触れられた時って胸を衝かれるし、まだ自分にも感性が残ってる、ってほっとします(笑)。

 

 それから英語の短歌もいくつかあって、どれも韻を踏んでて面白かったです。

 

Staring at the star of Bethlehem, she’s a starving stargazer!

(ベツレヘムに導かれても東方で妻らは飢える天動説者)

 

Please keep me keen to kiss a knight of knowledge in a Kafkaesque Kaleidoscope.

(覗き込む僕を模様にする君は悪夢のような万華鏡以て)

 

みたいな感じです。

 しかしイメージ的には英語の詩って頭よりも語尾で韻を踏む感じがしますけどどうなんだろう?rush/brush/hushとか、call/fall/all/steal/realとか。ちょっとふざけていくつか作ってみた(笑)。

 

 

くるぶしの傷に物語があって心の縫い目は数えられない (yuifall)

 

ごめん今は違うんだでも愛してるきみの名前の予測変換 (yuifall)

 

Put on Purple or Pink for the Psychic Party at Palo Alto (yuifall)

(紫かピンクを着てねパロアルト 気狂いじみたお茶会だから)

 

Make me surrender darling, you are the amber eyed hunter giving a drunker groggy slumber. (yuifall)

(アンバーのひとみは度数の高い毒 みつめて、きみに跪かせて)

 

 

「一首鑑賞」-179 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-永井陽子 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

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 永井陽子

 

生きているどのことよりも明々といま胸にある海までの距離

 

 愛知県出身の人です。胸の中にある海は穏やかな湾なのかな。この海は現実の海だろうか、それとも何か生命の源的な象徴的な存在としての海だろうか。母なる海的な。やっぱりどうしてもその人のふるさとを重ねてしまうので、伊勢湾か三河湾の穏やかな海なのかなって気がしてます。

 

 この人の歌には「二分音符」とか「フォルテ」「♪」なんかが入っていて、音楽に造詣が深い人なのかなって思いながら読みました。なんとなく歌もリズム感重視な感じがあり、

 

ゆふぐれに櫛をひろへりゆふぐれの櫛はわたしにひろはれしのみ

 

とか

 

ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり

 

とか、繰り返すリズムの心地よさがあります。

 

 

思ひ出の手綱を引きし一葉の 海、定期船、そして頬擦り (yuifall)