いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

読書日記 2024年5月1-7日

2024年5月1-7日

ヒラリー・ウォー(吉田誠一訳)『事件当夜は雨』

・都甲幸治『教養としてのアメリカ短編小説』

・ピエール・シニアック(藤田宣永訳)『ウサギ料理は殺しの味』

・駒井稔編『「古典の森」の読書ナビ』

・アンソロジー『わたしの「推し」の光文社古典新訳文庫

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』

・作家対談集『ほんのよもやま話』

河原和音、アルコ『俺物語!!』14巻

横山秀夫第三の時効

・浅ノ宮遼『臨床探偵と消えた脳病変』

アントニー・マン(玉木亨訳)『フランクを始末するには』

・レーナ・クルーン(末延弘子訳)『木々は八月に何をするのか 大人になっていない人たちへの七つの物語』

泡坂妻夫『乱れからくり』

ヒラリー・ウォー(沢万里子訳)『愚か者の祈り』

 

以下コメント・ネタバレあり

ヒラリー・ウォー(吉田誠一訳)『事件当夜は雨』

 ヒラリー・ウォーの話はどれも地味なんですが最後おおってなります。これも、地方の果樹園の主人が殺されて警察が犯人を突き止めるという内容で、途中まで超地味です。関係者やそのあたりに住んでいる男性全員の名前をリストアップし、全員のアリバイを確認したりなんだりしながら一人ずつ消していき、最後に実行犯を捕まえ…てから更にひと悶着あるという。このひと悶着が面白かったです。

 

・都甲幸治『教養としてのアメリカ短編小説』

 都甲幸治の本3冊目。これもめちゃくちゃ面白かったです。特に今回はわりと名前に馴染みがある作家の(ポー、サリンジャーメルヴィルヘミングウェイなど)しかも短編が取り上げられているので、『今を生きる人のための世界文学案内』に比べて身近に感じたしとても読みやすかった。最初のポーの『黒猫』の話からもうすごくて、

 

 そして動物が登場する作品でもう一つ考えてみたいことは、アメリカにおいては黒人奴隷が動物扱い、家畜扱いされていたという歴史です。誰が人間として認められる権利を持ち、誰が人間ではないのか。この問題はアメリカの社会だけでなく、文学のなかでも常にテーマであり続けています。

 

とあって心底ぞっとしました。えーもしかしてミッキーマウスが犬飼ってたりするのってそういうことなの?日本人の感覚だと、ジャムおじさんの家にチーズがいたりするから気にならなかったんですけど…。誰が人間で誰が人間ではないのか、という言葉がかなり衝撃でした。

 このように、名だたる作家の短編からアメリカ文化を読み解く内容でとても面白かったです。

 

・ピエール・シニアック(藤田宣永訳)『ウサギ料理は殺しの味』

 米澤穂信が『米澤屋書店』で絶賛してたので買ってみたのですが、ええーーっ??ってなった。しかも途中で殺人のトリック?も犯人も分かってから更に殺人が起こるので、なんじゃこりゃって感じです。とにかくなんかめっちゃシュールな話だった…。

 

・駒井稔編『「古典の森」の読書ナビ』

・アンソロジー『わたしの「推し」の光文社古典新訳文庫

 これは両方光文社古典新訳文庫のおすすめ本を紹介する目的で配布されている無料本です。もともとサン=テグジュペリの『夜間飛行』を読んだ時に、堀口大學の訳よりも二木麻里の新訳の方が好みだったので、もしかして古典を読むのに新訳文庫いいんじゃないかなーと思って。Wikipediaによれば誤訳問題とかもあるみたいでそこは気になるっちゃなるんですが、古典を昔の訳で読むと2重の意味で読みづらいというのもあり、やはり新訳は魅力的ですよね。気になった本いくつかあったのでいずれ今の積読の山が少し低くなったら買います…。

 

米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』

 米澤穂信の本でええー??ってなったこと今までなかったのですが、これはなった。てか、日常の謎ものミステリのシリーズで「日常の謎」を超えてひどい目に合うやつ(殺人とか殺人未遂とか大事故とか)で面白いものは基本的にないと思います。とはいえ、この小説は3年前の事件の回想と今回の事件が重なり合うように進行する作りで、3年前の事件の顛末に関しては(そこそこ大事件であるにも関わらず)面白いです。でも現在の事件は、いやそのトリック100%成り立たないでしょ、ってなって白けた。現実では100%成り立たないよ、それ。

 本格ミステリって、例えばいわゆる「嵐の孤島」モノとか舞台仕立てがあったりするとそこは一種現実ではないパラレルワールドで(携帯の電波通じなくてあらゆる交通手段がない場所に何らかの利害関係にある人間同士で閉じ込められるって現実ではまあないでしょう)、そのルール内で生じるゲーム的なものとして読めるんですが、日常の謎ものは日常だからさぁ、あんまり現実とかけ離れたことされても…。あと犯人はもともとトリックとか全くなしで衝動的に犯行に及んだということは別に正体を偽って逃げ切ろうと思ってはいなかったはずなのに、いざバレなかったってなったら途端にそんな謎の保身に走る?とどめをさせる大チャンスなのに?なんかよー分からんかった。今までのが面白かったからシリーズ読み返したい気持ちと他の積んでる本読みたい気持ちで揺れてる…。

 

・作家対談集『ほんのよもやま話』

 米澤穂信西崎憲の対談目当てで買ったのですが、色んな作家同士が対談してて読み応えありました。書籍刊行してればOKルールみたいで、作家以外の人もいます。対談で話す本の内容もほんとさまざまで、古市憲寿加藤千恵のペアはゆるゆるな感じなんですが次の藤井光と小野正嗣のペアの会話はレベル高すぎて編集側も理解できてないんじゃないか?って感じだったし(After Talkの欄にもほぼ編集側からのコメントなし)、フェミニズムとかについて熱く語ってるペアもあったりして、それぞれテーマが違ってて面白かったです。米澤穂信西崎憲はアンソロジーの魅力について話してました。

 面白かったのは羽田圭介中村文則で、そもそも羽田圭介がおすすめ本として又吉直樹の『火花』を挙げてたので、え?これいつの話だろうと思っていたのですが、中村文則羽田圭介に「自分が今男性作家として芥川賞最年少で、そろそろ羽田さんみたいな若い人に取ってほしい」って話していて、羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』と又吉直樹の『火花』が同時に芥川賞取ったのがこの記事が出た3カ月後だったらしく…。すごいタイミング…。そんなことあるんですね。

 

河原和音、アルコ『俺物語!!』14巻

 新刊が今ごろ出ていたので買ってしまった。相変わらず凛子ちゃんかわええわ。これも読み返したくなってしまって困ってる。時間が欲しい…。

 

横山秀夫第三の時効

 これも米澤穂信のおすすめ本。めちゃくちゃ面白かったです。警察ものミステリ好きなんですよね。横山秀夫は『クライマーズ・ハイ』読んだ時はとてもうまいけどそれほど印象に残らないなと思ったのですが、これは本当に好きでした。最初のエピソードと最後のエピソードのつながりが、というか最後のエピソードのオチが、ぐっときた。もっと色々読みたくなった。

 

・浅ノ宮遼『臨床探偵と消えた脳病変』

 米澤穂信のおすすめ本。現役医師の書いた医療ミステリです。「血の行方」と「開眼」が面白かった。そう来たかーってなった。「幻覚パズル」は、14歳で不登校だったら幻覚見るような疾患も(統合失調症とか)普通に疑うだろーって思った。「消えた脳病変」は答え分かったんですが(最初問題が提示された時に答えはほぼ2択だなって思ってたら途中で片方の選択肢が否定されたので)、それでも面白かったです。

 

「医者は、答えが見つからないからといって考えるのをやめてはならない。医療はなぞなぞやクイズとは違うのだ。考えるのを放棄するのは、その患者を諦めることを意味する。謎を前にして考え続けることができないのなら、医者にはなるな」

 

って台詞にぐっときました。途中で謎解きよりも患者さんの容態を気にした場面もいいなって思った。基本にどの話も「患者さんを信じる」ことをベースにしていて、読んでいて気持ちがよかったです。

 

アントニー・マン(玉木亨訳)『フランクを始末するには』

 米澤穂信のおすすめ本。帯のおすすめ文が青崎有吾でした。「マイロとおれ」が面白かった。なぜか赤ちゃんと一緒に捜査することになった刑事の話です。最後主人公が「ヘビ!」って叫んだの笑った。「エディプス・コンプレックスの変種」は不謹慎ですがちょっとスカッとしました。しんみりしたのは「緑」と「契約」で、「豚」は、逆なら普通にあるもんなぁ…とか考えさせられたよ…。「万事順調(いまのところは)」と「凶弾に倒れて」はこのあとどうなるんだろうとどきどきしました。総じて面白かったです。

 

・レーナ・クルーン(末延弘子訳)『木々は八月に何をするのか 大人になっていない人たちへの七つの物語』

 米澤穂信世界堂書店』に収録されていた「いっぷう変わった人々」が面白かったので買ってみました。表題作の「木々は八月に何をするのか」が私は好きでした。でも他の話もだいたい好きでした。大人になってしまった人が読んでも楽しいと思います。

 

泡坂妻夫『乱れからくり』

 米澤穂信のおすすめ本。これはキャラがいいですね。1977年の本みたいですが、舞子さんのキャラクターは新しすぎませんか。既婚・中年・肥り気味(?本編ではそう言われてる)・美女・喋り方を相手によってがらっと変えてくるって、現代でもなかなかないような。犯人と犯行の手口が作品のテーマと合っていて面白かったですが、電池と硝子瓶を誤認しないだろーとか、鑑識がゼラチンとプラスチック間違えないだろーとか幼児にその手で50錠も薬飲ませるのはさすがに無理だろーとかツッコミどころは多すぎます。ミステリってこの程度の現実離れは受け入れて楽しまなくてはならないのだろうか。もしそうであれば『冬期限定ボンボンショコラ事件』の現実離れレベルは『乱れからくり』ほどではないので、しれっと受け入れて楽しんだ方がいいのかもしれない。

 こういうの分かんないんですよね。警察モノの小説なんて実際の警察官は「ないわー」って思うだろうし、医療モノは医療従事者は「ないわー」って思うだろうし、他にも業界モノってだいたいそういう面あると思うんですが、どこまでフィクションとしてのみ込んで楽しむべき?あるいはどこから、「このトリックはないだろー」ってなるのか?まあもちろん人それぞれなんでしょうが…。

 ところで森博嗣の小説はちょっとこれに雰囲気似てますね。「電池がない」トリックも何かで(『封印再度』かなぁ…)あった気がした。

 

ヒラリー・ウォー(沢万里子訳)『愚か者の祈り』

 これも地味に犯人を追い詰める警察ものです。ヒラリー・ウォー4冊読みましたが、やっぱり『失踪当時の服装は』が一番面白かったなー。2番目は『事件当夜は雨』ですかね。これはかなりオーソドックスな犯罪小説でした。