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読書日記 2024年1月24-30日

読書日記 2024年1月24-30日

米澤穂信『折れた竜骨』上下

米澤穂信追想五断章』

米澤穂信儚い羊たちの祝宴

渡辺航弱虫ペダル SPARE BIKE』8巻

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『自由研究には向かない殺人』

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『優等生は探偵に向かない』

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『卒業生には向かない真実』

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『受験生は謎解きに向かない』

田丸公美子『目からハム シモネッタのイタリア人間喜劇』

田丸公美子『パーネ・アモーレ イタリア語通訳奮闘記』

田丸公美子『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ』

米原万里『ガセネッタ&シモネッタ』

・上野正彦『死体は悩む――多発する猟奇殺人事件の真実』

・夕木春央『方舟』

ほったゆみ小畑健ヒカルの碁』1-12巻

 

以下コメント・ネタバレあり

米澤穂信『折れた竜骨』上下

米澤穂信追想五断章』

米澤穂信儚い羊たちの祝宴

 結局米澤穂信が好きなんだわ。私の一番好きな特殊設定ミステリは『折れた竜骨』です。結末を知っていても、何回読んでも面白くてすごい。誰にとっても苦い結末なのにほんのり救いがあるところもとても好きです。

 『追想五断章』と『儚い羊たちの祝宴』はイヤミスカテゴリかもしれませんが、この嫌さは嫌じゃないんだよな。米澤穂信はバランスいいなっていつも思います。それにしても、小説読んでると作家の人たちってどれだけ本読んでるんだろうといつも恐れ入るわ。背景にさらっと出てくる知識量が半端ないもん。作中作や手紙、一人称の語り手など、語る人の違いによって文体をがらっと変えてくるテクニックにも感銘を受けます。

 

渡辺航弱虫ペダル SPARE BIKE』8巻

 何度も登場するので気にしないでください。8巻は黒田と修作が東堂好きすぎじゃね?とか田所と東堂の初会話とか見どころはたくさんあるのですが、基本的には東堂と巻島の話です。この2人なんなんですかね。自分はフィルターかかってる自覚あるんで、むしろ腐目線以外の人がどう思ってんのか知りたいです。口コミレビューにも「少女漫画か」「恋人か」「ラブコメ(コメ?)か」って書かれてて笑ったわ。完全にジッタリンジン『夏祭り』な感じです。きみがいた夏は遠い夢の中、空に消えてった打ち上げ花火。まあイメソンとか痛いこと言わせてもらうなら、Lulu + Mikeneko Homelessの『Watermelon』を推しますね。秋がきたら私たちどこにいるかな、そんなことばかり考えちゃうよ。君が会いに来てくれたらばかだねって笑って全部許すから。

 とはいえもしこれが少女漫画で2人とも女子だったらもっと遥かに湿っぽくなるだろうなとも思う。1年以上ずっとつるんでたのにその間自転車に乗ってただけで互いに相手のことあんまりよく知らないのは男子ならではかもしれん。この巻言いたいこと大量にあるけどすでにウザい感じになってるしもうやめます。

(全くの余談ですが、『Watermelon』の歌詞「すいかの匂いもぬるい眠りも」って江國香織の小説のタイトルから取ってる?)

 

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『自由研究には向かない殺人』

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『優等生は探偵に向かない』

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『卒業生には向かない真実』

・ホリー・ジャクソン(服部京子訳)『受験生は謎解きに向かない』

 電子書籍サイトでおすすめに常に出てくるのでつい買ってしまった。『自由研究~~』『優等生~~』『卒業生~~』は3部作になっていて、実質上中下みたいな感じです。1作目は高校生の探偵ごっこみたいな感じで基本爽やかな話なのでヤングアダルト向け小説かと思ったのですが、2作目以降は1作目のトラウマや人間関係を引きずった状態で進行するので、読んでてけっこうきついです。確かに真実を暴くことが皆を幸せにするわけじゃないですからね…。SNSやデジタルデバイスを駆使して捜査していくスタイルは基本的に変わらないのですが、一方でそれを利用されて嘘つかれたりオンライン・オフライン双方でストーキングされたり誹謗中傷されたりという負の側面も存分に描写されます。そして3作目『卒業生~~』でかなり衝撃の展開に…。振り返ると1作目から違和感はごくわずかにあったんですけど…。伏線が壮大すぎてヤバいですね。

 『受験生~~』は『自由研究~~』の前日譚にあたる短編で、謎解きはゲーム仕立てになっているのでその意味での衝撃は大きくないのですが、全体の流れを考えると伏線がすごいというか…。ここで登場するキャラクターの人間関係が3部作を経て激変するのでそれもまた色々と考えさせられます。

 いやー、ほんと、想像以上にハードだった。

 

田丸公美子『目からハム シモネッタのイタリア人間喜劇』

田丸公美子『パーネ・アモーレ イタリア語通訳奮闘記』

田丸公美子『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ』

 何年ぶりかに再読。イタリア語通訳の方が書いてるエッセイです。もともと私は米原万里のファンで、田丸公美子のことは米原万里と仲のいい通訳者として知ったのですが、この人のエッセイも面白いです。しかしイタリア語という言語の性質のせいなのかなんなのか、確かに下ネタが多いです。イタリアでは日常語として使われる言葉が性的だったり、男は常に女を口説いてるみたいなことが書いてます。

 それにしてもイタリア人って今もこんな感じなのだろうか。この人が通訳のお仕事を始めたのは70年代からだそうで、今から考えると50年くらい前~の世代の人たちの話ですよね。日本人も70年代の大人と今の大人じゃだいぶ違うと思うし、イタリア人もどうなのかなーって。

 というのも知り合いに20代のイタリア人男性がいるのですが、その人は普通の感じのいい若者で、特に下ネタも言わないし女好きって感じもないので(別に私がどうとかじゃなくて若い女子を口説いているところも見たことがない)、イタリア人でもZ世代はそんな恋愛に血道をあげてないんじゃ、と思って。まあサンプル1じゃ何とも言えないし彼はオタクなので特殊なのかもしれませんが…。イタリアの若者について本人に聞いてみたいけどセクハラだと思われたくないしなーと躊躇しています。

 

米原万里『ガセネッタ&シモネッタ』

 ロシア語通訳の米原万里が、師匠の徳永晴美にもらった芸名「シモネッタ・ドッジ (Simonetta d’Oggi) 」を自分より下ネタを連発するイタリア語通訳の田丸公美子に譲った話と、スペイン語通訳の横田佐知子を「ガセネッタ・ダジャーレ (Gasenetta d’Aggiare) 」と名付けた話で始まるのですが、2人とのエピソード集というわけではなく普通に通訳の小ネタ話です。駄洒落をはじめとするそれぞれの言語固有のジョークの訳しにくさとか、「ロシア語学」と「ロシア文学」を学ぶ人々の違いとかの話がとても面白かったです。数カ月くらい前に短歌の英訳に関する記事を読んで色々考えたりしていたので、「ロシア語学をやる人とロシア文学をやる人はぜんぜん違うんですよ、人種が。語学の人は文学をやらない。文学の人は語学をやらない。ロシア文学なんていうと、日本語でチェーホフ読んで、ドストエフスキー読んで、ニヒリズムとは虚無とはとか言ってるの多いですからね(笑)。」と書いてるのがとても興味深かったです。あと、社会主義ソ連だからこそ可能だった語学研究なんかの話もとても面白く読みました。

 

・上野正彦『死体は悩む――多発する猟奇殺人事件の真実』

 法医学者の書いた本で、法医学関連の記載はとても面白いのですが、全体的に内容が説教臭いのでちょっと疲れます。1929年生まれで昭和を駆け抜けた方なので、「昭和の殺人事件には人間らしいドラマがあったが、平成になるとそうではなくなった」「老人へのリスペクトが足りない」みたいな内容が鼻に付くというか…。あとサブタイトルの「多発する猟奇殺人事件の真実」は盛りすぎです。一体誰がこんなタイトル付けたんだ?作者の意図とも違うんじゃないのか?なにはともあれ、法医学者として死因究明につとめようとする真摯さは強く感じました。

 

・夕木春央『方舟』

 ホリー・ジャクソンと同じ週に読むんじゃなかったと思う感じの話でした。今週イヤミスばっか読んでないか。正統派クローズドサークルものの本格ミステリです。もともと10人の人間がいるのですがロジックが解けなくても雰囲気的に犯人候補は3人くらいに絞られ、犯人はその中にいるのでそれほど意外ではないのですが、犯行の動機が意外すぎるっていう展開。いやー、このパターンのオチはあんまりないのでは。ミステリとしてはとても面白いです。が、読後感はよくない笑。どんでん返しモノが好きで後味の悪さを許容できるならおすすめです。あと、本格ミステリってロジック重視で他は取って付けたように感じることがままあるので、ロジックプラスアルファがあってその点とてもよかったです。

 

ほったゆみ小畑健ヒカルの碁』1-12巻

 なんか勧められたので読んでみた。主人公がいきなりチートすぎて最初えー?ってなったけどその後一生懸命になるし、あんま嫌な奴出てこないので読みやすいですね。

 碁のことは全然分からず読み進め、未だに分かってません。分からなくても面白く読めるのはすごいなと思う反面、ちょっとルール説明とかあったらもっと楽しいんじゃ?って気持ちもある。でも主人公が13歳前後であることを考えるとターゲットの読者層もその辺なんだろうからルール説明とかダルいのかな…。作中で「平成13年」って出てきてその時主人公14歳で、昭和末期生まれやん、ってびっくりした。

 藤井聡太八冠(将棋ですけど)の活躍を見てからこういう漫画読むとまた感じ方変わりますよね。この漫画でも小中学生の頃から碁に人生賭ける!みたいな人たくさん出てきて、どれだけ幼い頃から囲碁や将棋に時間や熱意を費やし、それを継続できなければ勝ち上がれないのかと、勝負の世界の厳しさを感じさせられました。