山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
「どうでも良いことって僕は好きだよ、そういったもので回復したいな」
この人は『短歌タイムカプセル』でも登場しましたが、それ以前に穂村弘にたびたび取り上げられている歌人という印象が強いです。枡野浩一もこの人のファンだとか…。
うまく説明できないのですが、90年代の空気感を思わせる歌です。第一歌集「風が吹く日はベランダにいる」(1993年)に収録された青春の歌がすごく好きです。十代後半のまっすぐで痛々しい感じがストレートに表現されていて、苦しいくらいの気持ちになります。解説には
技巧的に冴えた歌というわけではないが、その未熟さが逆に計算のうちであり、青春期の幼さゆえの痛みと不安定感をリアルに表現しているように思う。
とあって、本当に、鎧われていない無垢な魂を投げ出されているみたいな、見ているだけで痛いような感じがします。
空千里ほろんだものが吹くような風の過去世(きおく)に僕はいますか
『短歌タイムカプセル』にはこういった青春系の歌が多く紹介されていたのですが、『現代歌人ファイル』では、後半は「罪の意識、破壊願望、死へのまなざし」(解説より)を詠う歌が多数紹介されており、
生まれては死んでゆけ ばか 生まれては死に 死んでゆけ ばか
与えあう 魂の家族 奪いあう 肉の家族 降る しぐれ雪
という感じです。
人生においてこの間に何かあったんでしょうか。それとも単に年齢を重ねたからなのかな。痛いほどの青春を胸に抱えたまま生きるのはしんどいですよね。
中に
カーテンのすきまから射す光線を手紙かとおもって拾おうとした
という歌があって、笹井宏之の
拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません
をなんとなく連想しました。この歌好きだけど意味がよく分からなかったのですが、もしかするとそれはひかりだったのかもしれない、と早坂類の歌を読んで感じました。
あのまひるきみは黄色くなっていた今ならぼくは泣かない うそだ (yuifall)