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「一首鑑賞」-130

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

130.木枯の生まれた海にゆくまでは文字はやさしい鍵だったのに

 (東直子

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で魚村晋太郎が取り上げていました。

sunagoya.com

 意味が全然分からないけど好き!と思ってリンク開いたら作者名を見て納得です。東直子、すごいなぁ。歌の意味は何となく分かるような分からないようなでいいやと思ったのですが、鑑賞文が面白かったです。

 

ついこのまえまで、言葉は相手そのものだった。

たとえば、おやすみ、とか、大切に、というようなみじかい言葉にも、そのひとらしいぬくもりを感じることができた。

言葉は、おたがいをたぐりよせ、わかりあうための鍵だった。

それが、いまはおもうようにこころを伝えあうことができない。

言葉をかわすたび、はぐれてしまったふたりのこころを確認するばかりだ。

 

でも、まだふたりは別れたわけではない、ような気がする。

おたがいを失いはじめてから、ほんとうの恋がはじまるのだ、ともいえる。

だったのに、という柔らかな口語の結句に、さむい季節にむかう恋のせつなさがにじんでいる。

 

(ところでこのやたらとひらがなの多い文章はこの人の文体なのだろうか?)

 「おたがいを失いはじめてから、ほんとうの恋がはじまるのだ、ともいえる」という一文を読んで色々と考えました。

 「ほんとうの恋」とは何だろうか。言葉(文字)が「やさしい鍵」であるままではほんとうの恋とは言えないのだろうか。

 

 自己解決するようであれなんですが、こういう、「ほんとう」っていうのはつまり、「生殖」的な文脈なのかなぁって思った。だって、もしも70歳以上の二人の恋愛だったら、わざわざ傷つけあう必要ってあるかなぁ。そして傷つけあわなかったとして、それが「ほんとうの恋」じゃない、って考えるだろうか。生殖可能年齢だからこその発想なんじゃないかなぁって。生殖がきれいごとじゃないからこそ、「おたがいを失う」「やさしい鍵を失う」経験なしに、「ほんとうの恋」とは言えない、って考えるんじゃないかなぁ。

 

 とはいえここで生まれているのは「木枯」なわけですから、さすがにそれは「我が子」のメタファーではないでしょう。「二人の間の隙間風」くらいに受け止めておけばよさそうです。今後、「木枯」が時々吹くことを容認した上で言葉を重ね合っていくのか、それとも「やさしい鍵」を失った相手とはもう終わりと考えるのか、人によって解釈が分かれそうです。魚村晋太郎は前者なのかな。

 

 私だったらどうだろう。また前回の枡野浩一

 

本当のことを伝へて憎まれてあげるくらゐの愛はなくつて (枡野浩一

 

のことを考えました。

yuifall.hatenablog.com

 それにしても、「文字」は「言葉」と置き換えてもいいだろう、と書いているけど、本当にそう読み替えていいのかなぁ。「言葉」だったら「言葉」って書きませんか?「文字」ですよ。「文字」は記号であって、「言葉」とは違う気がする。じゃあどう読めるのか、って考えるとちょっと分からないですが…。なんかの暗号みたいな?ずっと「やさしい鍵」として読んできたのに、木枯の生まれた海で読み返してみたら「あ、全然違う意味じゃん」っていうパラダイムシフトみたいな??

 

 

Rihannaをここで死ぬほどかけててよ ずっと昨日のふたりのままで (yuifall)

Stay and play that Rihanna song, we ain't ever getting older in the hopeless place.

(The Chainsmokers ‘Closer’ and Rihanna ‘We Found Love’)

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We Found Love (Rihanna ft. Calvin Harris) 和訳 - いろいろ感想を書いてみるブログ

 

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